恋人未満のこじらせ愛
完全に姿が見えなくなると、一目散に歩く。
目指すのは、そこの角。

角を曲がると、目に入ったのは─携帯を見ているあの人。
項垂れるように、壁にもたれ掛かっている。


私は歩く速度を落として、近付く。
コツ・コツと響くパンプスの音に気付いてか、智也さんは顔を上げた。

「理緒」
そして一歩、一歩私に近づく。

「俺を置いていくな……冷たいなぁ……」

言い返してやろうかと思ったけれど、目の前にはぐったりとした智也さんの顔。
何も言えないでいると─肩をぐいっと引き寄せられる。
腕が私を包み込み、すっぽりと智也さんの胸の中に頭が収まる。

「理緒と居るのが、一番落ち着く」

徐々に、肩にのし掛かる体重。
顔のすぐ横に感じる、息づかいも。


すぐそこにある体温を感じながら……徐々に心が音を立てる。
ギリギリ、ギリギリと、心が掻き毟られるのを感じていた。
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