三途の川のお茶屋さん
思わず十夜の口元に耳を寄せる。するとやはり、健やかな寝息が耳を打つ。
その瞬間、一気に体から力が抜けた。
……あり得ない、……でも、寝てる。
私は宙ぶらりんのまま着地点を見失ったような、何とも言えない心地だった。
けれど一旦核心から遠ざかった今の状況に、内心胸を撫で下ろしてもいた。
あと、十年……。
愛した人だから、ここで三十年、悟志さんを待とうと決めた。
だけど当時の激情は年月を経るごとに輪郭が不確かに霞みはじめ、今ではその根幹までもが揺らいでいる。
隣で寝息を立てる十夜に視線をやる。十夜の寝顔に、胸が締め付けられるようだった。
「悟志さん、私は薄情な女ですね……」