三途の川のお茶屋さん


幸子は俺だけのもの! 渡してなるものか! そんな激情に突き動かされるまま、幸子をこの腕に抱き締めた。

腕に抱き締めた幸子は、柔らかで温かく、幸福の香りがした。

本気で今宵、幸子の身も心も俺のものにしてしまおうかと思った。悟志という過去の亡霊なんかより、俺が溺れる程に幸子を愛してやれる自信もあった。

けれど幸子の翳る瞳に、幸子の心の葛藤が透けて見えるようだった。いまだ幸子の胸に巣食う悟志の亡霊に、憎々しい思いが奔流のように吹き荒れる。

「幸子、お前は本当の俺を知らない……」

胸の内、醜い嫉妬の炎を燃やす俺を、幸子は想像すらしないだろう。



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