三途の川のお茶屋さん


「太一様、全て妄想でございます。貴方様の兄君も伯父上も儚くなって久しい。貴方様のお家は既に、伯父上からその孫の代へと継承しております。貴方様を笑う者など、誰一人おりません」

太一様の妄執を一刀両断するも、太一様の心の内にまで響いていかない。

「そんな事はあるまい? ほれ、そこに兄者と伯父上がおろう? 我を指差して、嗤っておるわ」

晩年に差し掛かる太一様の兄も伯父も、とうに生を終えている。けれど太一様はいまだ、死神の残した呪縛から解き放たれぬままだ。

それはなんと不幸で、憐れな事だ。

けれど使徒の娘は、そんな太一様をどこまでも愛おし気に見つめていた。

「十夜、天界一二の名家に生まれ、全てが約束された其方には分かるまい。……いや、あちらの御家が女神の弑逆で潰えた今、其方は天界一の名門の出という事になろう。その出自と高い神通力から、其方は天界において金の卵。其方が本気で望めば数百年後、天界の最高位に立てるだろう。そんな其方には、望まぬともいつかは女神が宛がわれように。今回は年功者を立てて譲ってくれればよかったものを、固執しおってからに。お陰で我は、只人じゃ」





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