三途の川のお茶屋さん
「待って!! 待ってーーっ!!」
私は渾身の力で叫んでいた。
けれど乗船客のひしめく船に私の叫びは届かない。船頭さんはこちらに気付かず、ひと漕ぎ、ふた漕ぎと漕ぐ度に船が遠ざかる。
「行かないでーーっ!!」
縺れる足で埠頭に辿り着き、私は水際ギリギリまで身を乗り出して叫んだ。
けれど、船が止まる事はなかった。
私は祈るような思いで目を凝らし、ひしめく乗船客の中から先程の背広姿の男性を探した。
どこ!? どこにいるっ!?
すると人に埋もれるようにして一瞬、こちらに背を向ける白髪交じりの頭髪を捉えた。けれど一度視界に捉えたはずの後姿は、すぐに別の人影に重なって見えなくなった。