三途の川のお茶屋さん
条件反射で受け取りながら、私の目はスーツケースの中身に釘付けになっていた。素人目にも一目で上質と分かる絹地がスーツケース一杯に整然と詰められていた。
「ではお嬢さん、失礼いたします」
呉服問屋さんは、パタンと畳んだ扇子を胸ポケットに差し入れると、また大荷物を手に店を出て行った。
一人店内に佇む私の胸には、どす黒い感情が渦巻いていた。
十夜が着物を贈る、女性?
考えれば、手足からスゥッと血の気が引いた。
……あ、これ、ヤバいかも。
カラカラカラ。
「幸子、やはり素人の修理ではうまくなかったらしい。船底から水漏れしていると、……幸子? 幸子っ!?」
椅子に上半身を預け、床に頽れる私に気付き、十夜が目を丸くして駆け寄った。
「どうした!?」