三途の川のお茶屋さん
懸人さんのしようとしている事が、手に取るように分かった。私を船に乗せ、強引に輪廻へ舞い戻そうとしている!
『船に乗せさえすれば、記憶があろうがなかろうが、そんなのは大きな問題ではない。向う岸に行けば、魂はすぐに選別にかけられて、また新たな生を得て生まれ変わる』
かつて十夜が、言っていた。
「っっ!! やだ、やめてお願い! 船に乗せないでーーっっ!! いやだ、十夜っ、十夜ーーっっ!!」
私は半狂乱になって懇願していた。
十夜の事を忘れるなんて嫌だ!
十夜との別れなんて、絶対に嫌だ!
十夜との二十年を、消さないで!! 十夜と共にある、これから先の未来を、消さないで!!
頭の中は全部、全部十夜だけが占めていた。それ以外が浮かぶ余地など、寸分もなかった。
「懸人さんお願いします! どうか船に乗せないでっ!! いやだ、十夜っ!!」
懸人さんに引き摺られ船乗り場に辿り着く。