うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
11やっぱり和央に相談するしかないでしょう?
帰って着替えて、食事をした。
ビールとピーナッツ、どんな土曜日よ。
精神状態が普通だと思いたくて、普通に食事をした。
ただ正直、その味は分からなかった。
よく寝たし、目は冴えてる。

『和央、帰って来た。朝からビールをもらって飲んだ。』

自分でもどうしてその部分を報告したのか分からないけど。

『で、なんの話だった?』

当然そう聞かれる。朝ビールのことなんてスルーされた。

『告白された。好きだったって言われた。』

今度は最後の部分だけ報告した。

『まぁ、そうだとは思ってた。』

適当に返された?
本当だよ、信じてない?
ちゃんと驚いてよ。

『そんなこと全然言ってなかったじゃない。』

『僕が言っちゃダメでしょう?もし違ってたら文句言うでしょう。』 

だからって。

『だって普通嫌いな女を何で部屋に連れて来るの?泊めるの?心配してくれたんでしょう?』

『だって嫌われてると思ってた。』

そう散々教えたじゃない。

『本当に嫌いなら近寄らないし、アドバイスもしない。構いたくもないと思う。無視する。』 

『いじめられてると思ってた。』

『まあ、それは僕は分からないけど。でも何となく聞いててそう思ってた。まぁ、それはいいとして、返事は?どうしたの?付き合うの?』


『そんなわけ無いじゃない。』

文字で良かった。電話だったら、思いっきり動揺してるのが分かったと思う。

『じゃあ、なんて返事したの?』

『なんてって、・・・・別に。お世話になりました、ごちそうさまでしたって挨拶して帰ってきた。』

挨拶は何度もしたからそう言った。
最後は逃げるように帰って来たけど、よく覚えてないけど。

『なんで?せめて少し時間をくださいとかは?』

『言ってない。』

『ほんとに何も?』

『多分。』

二人で無言になった。

『ちゃんと返事しないと失礼だよ。』

『失礼なら今までたくさんされた、知ってるじゃない。それに急に言われてもなんて答えていいかわからない。』

『じゃあそう言えばいいよ。嫌われてるって向こうも思ってただろうから、何も返事も無しじゃあ、ダメだったんだって思ってるよ。ほら、今から連絡して。』

『連絡先なんて知らない。』

『誰かに聞けないの?』

『聞けない。絶対何でって思われる。』

バレるじゃない。

『もう一回家に行けば?』

『遠いよ。』

『ねえ、本当に嫌なの?姉ちゃんのことだよ。だってさっきから全然嫌だって言ってないよね。気持ち悪いとかアホとか嫌いだったら言いそうなのに。思いっきり言うよね。』

『昨夜、言った。』

『でも今日は言ってない。』

『何が言いたいの?』

『ちゃんと考えて、今日でも明日でも家に行って謝る、その上で答える。素直にそうした方がいいよ。』

『じゃあ、・・・・考える。』

『良かったね、姉ちゃん。』

『・・・・・・なんでよ、・・・・・まだ。』

まだ、なんだろう。答えてない、決めてない、分からない。
でもちゃんちゃらゴメン、と即断で拒絶しなかった自分。
今も全くそんな事を思ってないのは、言われるでもなくとっくに気がついてる。



おとなしく部屋で考えた。
どうすればいいのか。
考えすぎて嫌になり、心の声が独り言になり、今度は誰も聞いてない愚痴になった。


「弟のくせに偉そうで、何でもわかったように言って。あんな変な人の気持ちなんて分かるか!」

「だいたい最後に寝室に引きこもって何してたのよ。あの時点で私は帰っても良かったと思う。」

「急にあんな実力行使に出て。びっくりして固まるしかないじゃない。殴られなかっただけでもありがたいと思ってほしい。」


だって・・・。


あの時、本当にビックリしたまま固まって、おとなしく話を聞いてた。
その後のあの時もゆっくりだったのに全然逃げなかった。

ずっと目が合ってた。

ちょっとだけ閉じたけど、多分わかってたとも思う。
それでも立ち尽くして逃げなかった。

それなのに荷物を持って、部屋を出てきた。
どう思っただろう?

あの人の考えてることなんてわからない
だって自分の気持もよくわからないのだから。

< 11 / 25 >

この作品をシェア

pagetop