美しい敵国の将軍は私を捕らえ不器用に寵愛する。

友情

秦の兵達は匈奴を破った事に対する喜びでお祭り騒ぎとなった。
魏冄も戦の勝利に酔い、他の兵士達と共に喜んでいた。
すると魏冄は厠に行った帰りに、暗い道を一人ふらふらと歩いている白起を見つけた。

魏冄は明るい表情で白起に語りかけた。
「おう。白起将軍。今回も見事な戦だったな」

しかし、白起は返事をしなかった。
「無視するなよ」

魏冄は白起の肩に手をかけた。
すると白起は恐ろしい剣幕で刀を抜くと魏冄に突きつけた。
魏冄が突然の事に反応できないでいると、白起は振り返り、魏冄の顔を見ると安心した様様子で言った。

「なんだ。魏冄か。」

そして再び、ふらふらと歩き出した。

魏冄は白起に聞こえるように大きな声で言った。
「今日は凄いじゃないか。素晴らしい手柄だ」

すると白起は苦笑を浮かべて言った。
「何が素晴らしい手柄だ。敵を殺す分だけ、家族を失った可哀想な子達が生まれるんだぞ」

魏冄は不思議で仕方が無かった。
そんな事を言うのなら戦に参加などしなければ良いと思ったからである。
戦ではあれだけ、大暴れして敵を殺しておきながら、戦が終わると敵の死を嘆く。
魏冄には白起の行動が矛盾して見えた。
だから再び問いかけた。

「お前は一体、なんのために戦っているんだ?」

白起は静かに答えた。
「前も言っただろ。分からないんだ。」

魏冄は後ろから近づくと白起を抱きしめた。

白起は驚いて言った。
「何のつもりだ?俺にはそういう趣味は無いぞ」

白起は魏冄の顔を見た。
魏冄は泣いていた。
そして魏冄は言った。

「お前は大変だなー。でも安心しろ。お前が人を殺してもそれはお前の責任じゃない。命令した俺の責任だ。お前はただ必死に生きれば良い」

白起は笑って言った。
「そもそも俺を戦場に駆り出しているのはお前だろ」

魏冄は言った。
「そうだ。俺が悪い。お前は天才だ。お前のような部下がいながら戦場に出さないなんて判断は俺には出来ない。今後も俺は自分の出世の道具としてお前を利用するだろう。お前は俺を恨んで良いぞ。」

白起は言った。
「気にするな。昔からずっとそうだ。だが今までよりずっと良い。お前は俺を信じてくれたし、俺のやり方を理解してくれた。それだけでも、随分と気が楽だったよ」
魏冄はさらに涙を流しながら言った。

「そうか。恨んでないのか。じゃあ、俺と友人にならないか。」

白起は渋い顔で言った。
「それは少し考えさせてくれるか。」

「なんでだよ。良いだろ。」
魏冄はそう言うと白起の肩を抱いたのだった。
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