メガネ君は放課後ヤンキー?!
天国と地獄
another side
[ another side]
浮ついた空気が学校を支配していた。
今日は体育大会の日。数少ない行事なのに、
この学校は体育大会に全くと言っていいほど
盛り上がりに欠けている。
そこにはただ、いつもと違う浮ついた雰囲気だけが存在している。
風だけで動く船のように誰かが上手く舵を切れば、きっと今も良い時間になるだろう。
だけど俺には、
やらなければならないことがある。
競技が始まると俺は人の流れに逆らって、
グラウンドを抜け出て、人気の少ない南門へと急いだ。
向かった先にはすでに、いつもの4人が立っていた。遠くの方からおばさんもこちらに向かって歩いてきている。
「カイト、なんで染めてんだよ」
俺は四人と合流して、真っ先にカイトに言った。
もともと四人とも、でかくてうるさくてどこに行っても目立つから、俺の高校に来ると言い出した時からセンとリュウには目立つ格好で来ないように言ってたのに。
1番話が分かると思っていたカイトの髪は燃えるような赤変わっていた。
「ほら!似合ってんだろ?チカ。
俺が染めたんだよ」
自慢げにセンがカイトの髪をわさわさと撫でた。
「今日は目立つと困んだろ。
お前ら、やっぱ呼ばなきゃよかった」
俺が言うと、リュウが強気な笑みを浮かべて言った。
「チカは今日忙しいんだろ?」
「まぁ、いろいろな」
「チカがシンデレラ探したら、面倒なんだろ?」
「まぁな」
俺が渋々頷くと、満足そうにリュウが続けた。
「だったら俺らの出番じゃん」
「俺らだって、やるときゃやんだから。」
リュウに被せてセンも言った。
「カイトがその髪で来んのはちげぇわ」
俺がカイトに向かって言うと、
聞きなれたおばさんの声がした。
「チカ!」
「細かいことにケチつけるんじゃないよ。
カイトは気に入ってんだから。」
おばさんにまで言われてしまうともう、ぐうの音も出ない。センまでおばさんに便乗して。
「なー、ちぃちゃん。チカ酷いよなぁ。
俺だって昨日染めんの頑張ったのになぁ。」
「まぁいいや。シンデレラ見つからなくてもいいから、お前らが見つかんのだけは避けろよ」
わーってるって
と頷く3人の1番後ろに立つレオは呆れたような顔をしていた。レオだけは黒のキャップを被って…。
「カイトとレオ。ちょっと待て。」
俺はレオがかぶっている黒いキャップをカイトの頭にかぶせた。
「これでマシになんだろ」
「ちぇー」
カイトよりもセンがあからさまに残念そうな声を出した。
「なんでセンが残念がってんの」
「だって俺、結構頑張ったのにさ…」
「それは今じゃなくていいだろ」
「るせー。チカ、センコーみたいなこと言うなよ」
そう言って、センは舌打ちをした。
「憶えてるよな。こっからは直接会と目立つからなしな」
「わーってるって。こっからは別行動だろ?」
センは俺の言葉にかぶせるように言った。
リュウが聞いているのか、センが分かってるのか分かってないのか心配だが、レオとカイトは黙ってうなずいている。
きっと大丈夫だ。
この二人さえしっかりしているから、
今までどんなことでも、どうにかなってきた。
これくらい俺らには朝飯前だろう。
「なんかあったら電話な。電話は絶対出ろよ!」
俺は4人に言い残すと、居るべき場所へと急いだ。
だけど、その後俺の知らないところで、予定外のことが起ころうとしていた。
体育大会という、浮ついた学校の雰囲気に乗じて俺が起こそうとしていたカオスという名の嵐に、俺自身が巻き込まれるなんてその時は微塵も思わなかった。
グランドのクラスの元に戻ると、すぐに電話がかかって来た。カイトからでも、レオからでもない。
リュウからの電話だった。
どうせ、リュウのことだから悪戯電話だろう。
だけど絶対に電話に出ろって言った手前俺が電話を無視するわけにはいかず、渋々電話に出た。
「もしもし。何」
「おっチカ?」
「そうだけど。電話するの早くない?」
「電話しろって言ったのチカだろ。」
「で、どうした?」
「一応、気になったことあったからさ」
「カイトがさお前と別れてから言い出したんだけど。あいつ、ここの知り合いに会いに行くって」
「お前も知ってるやつ?」
「知らねー。センにも聞いたけど知らないって」
「分かんねぇけど一応、報告しといたから。」
「分かった。リュウありがとな、あと一応カイトのこと頼むわ」
「多分女だろうな」
リュウはいつもそういう発想になる。
あのカイトなら他の可能性の方があるのに。
「カイトに限ってそれはないだろ」
「わっかんねーぞ」
「カイトのこと頼むわ」
「えええ、俺かよ。やだよ。なんで俺。別にいいだろチカ〜。女にくらい会わせてやれよ」
「今日何しにきたか忘れんなよ」
「わーったよ、その代わり。カイトの場所は教えるから、チカお前止めに行けよ」
そう言うと、リュウは電話を切った。