メガネ君は放課後ヤンキー?!
「なんだぁ、中村さんに聞いたら分かると思ったんだけどなぁ」
食い下がるように佐倉咲の噂を口にしていた女は言った。
なんだかいつもと違う。変だ。
勝手に噂話をして私を遠巻きに見ていただけの女子たちに、噂の話で絡まれるなんて初めてだった。
「何が言いたいの?」
「ううん、今日つまんないから面白いことないかなぁーって」
「噂話も飽きてきたんだよね、田中君もいないし。恋バナしない?」
「先生に頼まれてることあるから、行くね」
これが学校内での私の常套句。
皆、悪いことは考える癖に結局親と先生には逆らうことはできない。どうせ、内申点を気にしているんだろう。どのみち私には関係のない話だ。
「また話そうねぇ、中村さんっ」
少し離れて振り返ると彼女たちは楽しそうに笑っていた。その姿は決して、人の悪口で盛り上がっているようには見えなかった。
他人が見るとそれは、純粋に青春を謳歌する女子高生にしか見えない。
だけど、彼女たちが大体何を言ってるかなんて想像できる。
悪意のある噂の上に、更に私怨を上書き保存していくだけの趣味の悪い暇つぶしなんてごめんだ。
ご機嫌取りのために気休めの相づちを平気で言うのもどうかしている。どちらにせよ、わたしは他人の考えに振り回されたくはない。
彼女たちから離れたい一心で校舎に向かい歩いていると、少し離れた来賓のテントの前にひときわ目を引く男がいた。
その男は黒い服を着ているのになぜだかすごく目立っている。
それだけじゃない、何故だかあの立ち姿を何処かで見たことがあるような気がした。
何者だろうと心の中で思った時だった。
遠巻きに見ていた男と目が合ってしまった。
男は私を見るなり言った。
「見つけた!」
大きな歩幅でズカズカと勢いよく、私の方へと近づいて来る。甘いチェリーの香りがふわりと風に乗って近づいてくる。
「俺だよ」
私の元へと十分近づいてから、
彼はかぶっていた黒いキャップを取った。
見上げるくらい大きな身長、
そして燃えるような赤髪。
あの夜の男だ!
昨日の夜。
道に迷った私を助けてくれたコンビニの店員だった。
「ほら!昨日の!コンビニの」
あまりに驚き、開いたままふさがらない口をやっと閉じて、うなずくと彼は嬉しそうに言った。
「思い出した?!」
男は嬉しそうに笑った。
その恐ろしいほど純粋な瞳に、
喜びだけが写っていた。