メガネ君は放課後ヤンキー?!
akari side
塾通いが毎日になって暫く経った金曜日だった。
いつものように先生と11時になるまで話をしようと受付の隣にある先生の机に向かうと、
「今日俺だけだから、ちょっと待ってて」
と先生が言った。
背中を向けると先生の背中には塾生の誰かが悪戯でつけた赤い付箋が貼り付いていた。
ふとガラス張りの教室から他の教室を見ると、ほかの先生はいなくなっていて、いつも最後まで残っている塾長もいなかった。
「塾長はどうしたんですか?」
パソコンに集中している先生に聞くと。
「塾長は出張だよ」
先生は画面から目を離さずに答えた。
赤い付箋はなおも先生の背中でヒラヒラと揺れている。
「そういえば今日塾長の授業なかったですね。」
なんて納得してると。
「中村さんって意外と天然だよね。」
「先生には言われたくないです」
笑いをこらえられなくなって、
思わず言いながら吹き出してしまった。
「え?俺が?」
驚いたように言うと、子犬みたいな笑顔でこっちにやって来る。その笑顔に、きっと大学でも人気者なんだろうなって勝手に想像しちゃう。
「仕事は早いけど?」
「先生」
背中に付箋があることを私が言いかけると。
遮るようにひときわ大きいマウスのクリック音が先生の手元から聞こえた。
「ん?何?」
付箋をつけられたことも気づかずに、尻尾でも振らんばかりの様子で自慢げに私を見る先生に『天然』だなんて言われたくない。
「やっぱり、何でもないです」
笑顔で私が言うと先生は、
「よし!終わったから帰るぞ!」と言い、パソコンのモニターから顔を上げて、笑顔を私に向ける。
こういうふとした時の表情が本当に、ご機嫌な子犬みたいだ。
先生は机の下から鞄を持って立ち上がるのを見て私は急いで時計を見た。
時計はまだ、10時50分を指している。
さっき出て行った塾生たちが外にいるだろう時間。
それでも先生はお構いなしに私を追い出すと、
教室の電気を消してドアにカギをかけ始めた。
付箋をつけたままの後ろ姿を見ながら、
今日は普通に帰ろうかな。と変身をあきらめた。