メガネ君は放課後ヤンキー?!
another side
【another side】
「お!チカ」
高校から北斗軒に向かって歩いていると、後ろから耳馴染みのある声であだ名を呼ばれた。振り返ると異様にテンションが高いリュウが駆け寄ってくる。最近、彼女が出来たばかりのリュウに道すがら会うのは少し久しぶりのような気がした。
「リュウ、今日彼女は?」
「ああ、もう別れたよ」
「早!交際期間の短さ中学生かよ」
「また束縛してきてさ、『あたしと友達どっちが大事なの?』って聞かれたから速攻で友達って」
「お前、またそれか」
「告られた時に言ったんだけどな。俺は絶対友達優先するって。後からそれは無しって言われてもな、それはこっちも無理だわ」
北斗軒に着く道のりでリュウに会って、それ以上多くを語るわけでもなく、二人で家に帰るみたいに北斗軒に入る。
リュウがスマホをいじりながらおばさんが世間話をしている間に、俺は制服から制服に着替えて店の準備をしていた。
リュウは異常なほど、北斗軒のおばさんと仲が良い。
2年前に俺らが集まると決まった頃はリュウとレオが遅れてきたのに、おばさんと仲良くなってからというもの、彼女が出来る前までは、カイトよりも(下手すりゃ俺よりも)先に着いてここで待っていることも多かった。
おばさんのことをおじさんが呼ぶみたいに「ちぃちゃん」と呼び始めたのは俺らの中でリュウが最初だった。今では俺以外の四人は皆おばさんのことをちぃちゃんと呼んでいる。
その一方でレオは相も変わらず、のんびり男のままだった。
それから暫くするとカイトとセンが来てこの店は一気ににぎやかになる。カイトとセンは保育園からの幼馴染で、豪快でリーダー気質なカイトとセンスのいいキレ者のセンは良いコンビだ。
「よー!チカ!え?もうリュウ来てるの?」センはリュウをみて驚いていた。
「別れたってー」俺が厨房から言うとカイトがスマホをいじるリュウの頭をヘッドロックした。
「は?なんだよ、詳しく聞かせろ」
俺が下準備を終えて四人で話している間に、遅れてやって来るレオに文句を言う。
このたった2時間にも満たない日常が時々たまらなく愛おしく感じる。その会話のほとんどに内容は無くて、はたから見たらただのバカ話なんだろう。
だけど、こいつら4人と話していると、俺には出来ないことなんてこの世に一つもないような気がした。