メガネ君は放課後ヤンキー?!
「小学校の6年生の春休みの時に」
思っていたよりもずいぶん昔の話を始めたことに驚いた。一息置くと彼女は続ける。
「習い事の帰り道の住宅街に十字路があって、そこで車に轢かれかけたんですよ」
「交通事故に遭ったの?」
私が聞くと彼女は首を横に振って続けた。
「って言っても車がスピード出す前で、ちょっと跳ね返されてこけただけなんですけど。車のドアが開いて人が出てきたんですよ」
「うん」
どんどん話が見えなくなっている気がする。
「車から私と同じ歳くらいの男の子が出てきたんですよ。運転手の人まで降りてきて、その子高そうな服着てるなって思ってたら、坊ちゃんとか呼ばれてて」
彼女は笑いながら言った。
「ピッカピカの運転手付きの車から出てきて、『大丈夫?』なんて…あんな王子様みたいな人いるんだなぁって」
そう言うと佐倉咲は思い出したのかうっとりとした。
「ちょっと待って、話ズレてない?」
「大丈夫ですって。今から繋がります」
「そう?」
「で、その人が誰だかわからないですけど、勉強頑張ってお金持ちになったらあんな人と知り合えるのかなぁって思って、で、高校受験頑張りました」
話し終えると佐倉咲はなぜがドヤ顔をした。
「なんだ。」
「なんだって何ですか!一応私の初恋ですよ」
「ええ!それが?!」
「そんな風に言わないくださいよ。今でもずっと憧れてるんです」
運転手付きの車に憧れているだけなんじゃないかなんて、言葉が口から漏れ出そうになったが、必死になって抑えた。
「いつか会えると良いね」
「会いたいような、会いたくないようなって感じです」
「そうだよね」
そう言って二人は、食べることに専念し始めた。
暫くして佐倉咲はまた話を始めた。
「先輩は?ないんですか?そういう話」
「え」
「好きな人とか」
「いいよそういう話は」
「なんでですかー」
「恥ずかしいから」
「え!あるんですか!あるんですね」
「あーもううるさい」
「話してくださいよー。私も話したのにフェアじゃないですから」
「最近は、塾の先生としか話してないから。そういう話ないよ」
「その先生いくつですか?」
「大学生。22歳だって」
「わー!ありです!先輩!そこ行きましょ!」
「なんで、私の彼氏作ろうとするの」
「だって先輩。田中先輩との噂のせいで彼氏いないでしょ?だから」