片桐千歳の日記帳
1.あたしが耳を疑った理由
台風が直撃してる時に限って仕事が休みでして。

あぁ、髪邪魔なんだよなぁ。

こんな時に行きたくないのですが、こんな時にしか行けないわけで、普段行っている美容室はこんな時でも予約がいっぱいなわけで、馬鹿じゃねねーの? キャンセルしろよ!

と、思いつつも、家の近くにある美容室に行ったんですよ。もちろん行くのは初めてです。

『すみません。混んでます?』

若い兄ちゃん(というか、私より少し年上か?)が、1人でやっているのか椅子が2つしかない。その1席には今来たばかりな感じの男性がついている。

『いらっしゃいませ。30分くらいですかね』

まぁ、台風だし引き下がるのも面倒くさいので待つことにした。

料理の漫画を読むことにする。

『どんな感じにしますか?』

店員(以後マスター) が聞く。

『そうだなぁ、風に聞いておくれよ』

外は台風である。

ゴォォォ!!

しか聞こえない。

『どうだい? 導いてくれただろ?』

どこに導いているのかすらわからない。

マスターも困ったのか

『何を言ってるのかサッパリわからない』と答える。

『そうか。やはり旅人である俺らにしかわからないことだよな。ハハハ』

ハハハじゃねーよ。

『旅してるんですか?』

マスターは真面目な方なのかツッコミをいれることなく自然な質問をする。

『よくわかったな。そう。俺は旅人。レベル40ってところだな!』

『どちらから来られたんですか?』

そう。それはあたしも知りたい。なにしろここは北海道札幌市の琴似というところである。

さぁどこから来たんだ?

『マスター。驚くなよ。俺は琴似から来たんだ!』

来たんだ!じゃねぇ!

まだ旅始まってすらいないやん!

スタート地点やん!

レベル40の定義知りたいわ!

『あ、旅から戻ってきたんですね。今までどんなところに行ったんです?』

そうか。そういうことか。頭いいなマスター!

『何年か前に札幌駅に行ったくらいかな』

あたしより行動範囲狭いやん!

むしろ札幌駅はあたしの会社の通り道にあるから!

マスターは少し考えて

『旅の目的はなんです?』

マスターは多分優しい人なんだろう。あたしならこの時点で馬鹿にしまくってる。泣くまで馬鹿にすると思う。

『旅の目的はただ一つだ。それはビッグマック。奴を倒すことだ』

ビッグマック? マクドナルドのアレ?

『恐ろしい奴だよビッグマックは。あの4枚パティにパン3枚、とてもかなわない。しかし俺は奴を倒す使命がある』

お、おぅ。頑張って。

マスターは

『わかりました。とりあえず丸坊主でよろしいですね?』

『お、おぅ』

結局、この客は丸坊主になり、

『このまま外に出たら風邪ひきそうだぜ』とか言いながらも帰っていき、あたしの番になった。










『お待たせしました。旅人風になさいますか?』









『絶対にするな!』






あたしが耳を疑った理由 おしまい



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