もう一度だけ - Just One More Time
『休憩します』
山あいに沿った道のほとんど何もないところにバスが止まり、皆がぞろぞろと降りていく。
降りてみてわかったが、ちいさなレストランが崖に張り付くようにして立っていた。
道路の反対側には、相変わらずのオリーブ並木がつやつやした細い葉を太陽に向けている。
(ここじゃ撮れそうなものはないな)
そう思いつつも、大事にしている一眼レフの入った黒いバッグを車内に置いて行きたくはないので、しっかり抱きかかえてバスから降りようとした。
『気をつけて』
バスの降り口のステップの位置が高いので、運転手がドア側にまわって手を差し伸べてくれた。
一人で降りられるし他人と手を握りたいわけじゃないが、遠慮するのも嫌味な気がして差し出された手を掴んだ。
暖かいおじいさんの手に、嫌がったことを心の中で少しだけ後悔する。
足で踏みしめた異国の土地は思いのほかごつごつしていて、底の厚くない靴を履いてきたことが後悔のリストに加わった。
さあっと乾いた風が足元を撫でていく。
見回しても目に入るのは、右側に崖、左側にオリーブ畑、真ん中に埃っぽい一本道だけ。
ああ、本当に来てしまったんだ。