別のお話。
電車の中でも何も話さなかった。
黙ったまま電車を乗り換えて、何も話すことなく、だけどいつもより距離を縮めて、寄り添うようにして電車に揺られた。
俺が生まれてから十五年間、何一つ変わることなく、変えることもなくあり続けている馴染みのある街で電車を降りて、駅前に止めた自転車に乗る。
荷台にはシヅキを乗せて、何度も通った道を丘に向かって進む。
母親に手を引かれる子供を避けて、横に広がって歩く学生の間を縫って、そうやって駅前通りを抜ける。
トラックが行き交う広い道路を通っていつも曲がる脇道に入る。
一度、自転車を止めてシヅキを降ろしてから俺も自転車を降りた。
そして、シヅキの右手と俺の左手がそれぞれハンドルを握ってバランスの取りづらい自転車を二人で押して坂道を登った。