別のお話。

シヅキは会話のキャッチボールが下手だ。

問いかけに答えずに急に名前を名乗ったり、あまり意味のなさそうなタイミングで考え込んだり。

そしていまは、やはり俺の問いかけには答えず手をだせと言っている。

慣れた。

立ち上がるから手を貸してくれとか、きっとそんなニュアンスで手をだせと言っているんだろう。

そう思った。

シヅキとの距離を詰めて片手を差し出す。

俺の手に重ねるように、シヅキはゆっくりと色の薄い手を伸ばす。

「え……」

重ねられたその白い手は、触れた実感のないまま俺の手をすり抜けた。
< 62 / 407 >

この作品をシェア

pagetop