春待ち
もちろん、恵は自分で洗った食器を持って帰り僕の部屋に泊まるようなことはなかった。そんな風にして1年が経とうとしていた。夏には海へ行き、秋は京都へ紅葉を見に出掛けた。そしてクリスマスにはルミナリエを見に神戸へ行った。だけど、僕等はキスをしたこともなければ手を繋いでもいなかった。恵のお陰で人との関わり を持つようになり出来た友達にその事を話すと「信じられない」と皆言った。そしてふた言目には「告っちゃえよ」とほのめかす。僕には勇気がなかった。勇気があるなら既にそうしていただろう。本当の気持ちを伝えることによって恵と近付けることより、今の関係が壊れる恐怖が大きかった。

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