冷たいキスなら許さない
「灯里が食べずに帰るわけないもんな。食うか」
「やった。私ね、狙ってたものがあるんですよね。でも・・」
「わかってる。手を洗いたいんだろ。化粧室に行くか」
「さすが敬愛する私の社長さん」
「食いすぎて腹壊すなよ」
あいさつ回りが終わり緊張の糸が緩んでぽんぽんと会話が弾む。
「もう、本当に仲良しね」奥さまに呆れられながら化粧室に送り出される。
会場出入り口から化粧室は男女で左右に分かれたところに位置していた。
「二人別々に会場に戻ると例のセクハラ常務にお前だけ捕まるかもしれない」と過保護なほど心配してくれる社長の言う事を素直に受け入れて、廊下の脇にあるソファーで待ち合わせることにした。
幸いなことにセクハラ部長とやらの姿は見ていないけれど、用心するに越したことはない。
言葉も態度もぶっきらぼうだけど、大和社長は本当はとてもやさしいし、気遣いが上手だ。
今も私がたくさんの人と握手した手で食事をしたくないと気が付いてくれたのだろう。
だからモテるんだよね。
男女問わず大和社長は人に好かれる。
人嫌いの東山氏が有悟社長のために今夜のパーティーに出て来てくれたことからもわかるように彼には人を引き付ける何かがある。