冷たいキスなら許さない
「おかえりー。灯里ちゃん、今お夜食出来上がるから。今夜は一晩中女子トークよ」
奥のキッチンからテンションMAXのお母さんの声が聞こえてくる。

「よかったな。大歓迎されてるぞ。こんなに喜んでる年寄りを拒否できるならしてもいいけど?どうする?」
私が拒否できないってわかってるくせに。

社長はニヤッと笑うと私を追い越してキッチンに入って行った。

「お袋、息子にはお帰りの言葉がないのか?」
「あら、あんたもいたんだ」
「俺が電話したんだろうが」
「そうだったわね。いいから早く手を洗ってきなさいよ」

漏れ聞こえる母と息子の会話にお父さんが苦笑する。

「灯里ちゃん、もしかして大和に騙されたか。でも、たまには泊まってくれたらこの年寄り夫婦が大喜びするよ」

「お父さんとお母さんはまだ年寄りじゃありませんよ。でも、お腹はペコペコだしお酒もほとんど飲んでないし。今夜はお言葉に甘えてお泊りさせてもらいますね。
酔って大騒ぎしたらごめんなさい」
へへっと笑うと、
「かーさん、客間の布団は俺が出しておくからなぁー」
とお父さんが嬉しそうに大声を出して廊下の向こうに消えていった。

お父さんもこんなに喜んでくれるのならこのご招待ありがたく受けよう。
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