冷たいキスなら許さない

でも、ここで文句を言ったり、顔を上げて不満そうな顔を見せたらまたあの情熱的なキスの餌食になってしまう。黙って俯いたままでいると、社長の腕が私の背中に回り私の頭は社長の胸に押し付けられた格好になっていた。

社長の胸、あったかい。
ーーーそうだ、このぬくもり、前にも感じたことがある。

あれはこの会社に入ったばかりの頃ーー

櫂のことを忘れたかった。それだけじゃなくて、経験も能力もない私のことを拾って居場所を与えてくれた大和社長のために必死で仕事を覚えようと頑張った。
でも、かなり年長の現場スタッフに何の経験のない私がすぐになじめるはずもなく、うまくコミュニケーションがとれず苦戦を強いられる毎日。
そんなある日の飲み会でちょっと飲みすぎてしまい、大和社長にからんだ挙句、最終的に背負われてタクシーに乗せられ送ってもらったことがあった。

背負ってもらった大きな背中の温かさ、タクシーの車内でも胸元に寄りかかり感じた大和社長の温かさ。
すごく安心できる温かさだった。