千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
黎と神羅は熱烈に愛し合っていた。

そういう経験がなくとも、ふたりが心から深く繋がっているということだけは分かった。

それでもなお離れなければならない理由が分からず、美月は良夜を茫然とした眼差しで見つめていた。


「今のは…?」


「黎と…神羅…だな。それと…黎が主さまと呼ばれていた。黎は…うちの家系の者か?」


「情報が少ないのでなんとも言えませんが、そうなのかも…」


…熱烈なものを見せられたふたりはついもじもじしてしまい、良夜はそっと握った美月の手を離すことができずに顔が熱くなるのを感じていた。

自分にこんな初心な面があることは知らなかったし、俯いて同じように顔を赤くしている美月を見ていると、全身が熱くなって頬をかいた。


「…すごいものを見せられたな」


「そ、そうですね…。もう会えなくなるのだから、ふたりとも思いの丈を込めて…」


黎と神羅と澪は、三角関係だ。

少ない情報を繋ぎ合わせると、黎と澪がうまくいくように神羅が身を引いたように思えるし、だけれども黎は澪より神羅を愛しく思っているようにも感じた。

まるで今の自分の状況に似ている――

そう思った美月がそっと目を上げると――良夜とばっちり目が合ってしまい、言葉が紡げなくなった。


「美月?お前なんか様子がおかしいな。どうした?」


「…良夜様は…私に何かを求めますか?」


「身体」


冗談と分かっていたがどんと胸を押すと、良夜はわざと痛そうに胸を押さえながら笑った。


「求めているものはあるが、得られるかは分からない。俺次第というところだな」


「では…私に何も求めていないわけではないのですね?」


「もちろん。お前には求めたいことが沢山ある。ただ心の許容量をきっと超えるだろうから小出しにしてやってるんだ」


安心した。

何も求められていないんじゃないかと思っていたから、求めすぎていると聞いて心から安心して、思い切って良夜の身体にしなだれかかって目を閉じた。


「良かった…」


「何が?」


その問いには答えなかったが、良夜も返答は元々期待していなかったため、ふたりで床に身体を横たえていつまでも見つめ合った。
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