君に心を奪われて


翼の病室に行くと、翼は真っ白な部屋で呼吸器を付けたまま眠っている。体にはたくさんの包帯が巻かれてあり、翼の整った顔も包帯で少し隠れてしまっている。


「翼……」


その様子を見て涙が零れた。茜先輩も隣で涙を流していた。


「私のせいでこんなことに……」


茜先輩はその場で泣き崩れていた。自分がやったことにかなりの責任を感じているのだろう。


私は翼の手を両手で握ってみた。すると、握った手が弾けるように小さく動いた。


翼はゆっくりと瞼を開いて私を見た。目を細めて笑った。


「花菜……守れて、良かった……」


翼はもう片方の手をゆっくりと近付けて私の手に触れた。弱々しくなった彼を見て涙が止まらなかった。


「泣くなよ……花菜、大好き……」


「翼……」


彼は掠れた声で私に言った。私は翼の手を握る手の力を強めた。


離れないで、絶対に死なないで……。もう目を覚ましたから死ぬことはないと思うが、少し怖くなった。


丁度、医者達が病室に入ってきた。翼を診た後、呼吸器を外して出て行った。


そして、翼はゆっくりと体を起こした。


「大好きだよ、花菜」


「私もだよ……」


私達は真っ白な病室で熱いキスを交わした。



「ごめんね、翼……」



茜先輩がそう言って静かに去ったのを私達は知らなかった。





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