君に心を奪われて




入院している間に翼の葬式は終わってしまった。私はやっと我が子と一緒に退院が出来たのだ。


入院中は泣いてばかりの日々で、途方も暮れるぐらい泣いた。泣いたってもう意味は無いのに。


赤ちゃんを抱えながら病院の外に行くと、どこか遠いところを見上げる祥也が居た。


「祥也!」


「おっ、花菜。ああ……つばさ……」


その名前を呼ぶと、子供のつばさは嬉しそうに笑った。


「名前って、漢字なの?」


祥也が聞いてきた。私はつばさを見つめながら言う。


「平仮名でつばさだよ。さすがに漢字だと女の子には可哀想かなって……」


私も遠い空を眺める。



本当に君は逝ってしまったんだね。



さようなら、大好きだよ。



翼……。




また涙が出そうになったがなんとか堪えようとする。


結局、死ぬって何?運命って何……?もう何度考えたって分からないや。


「……つばさ、ママだよ」


私は抱えているつばさに笑い掛けてみた。隣で祥也が不思議そうに見ている。




私の家の前まで祥也と一緒に歩いた。なんか、変な気分だった。


「あのさ……」


家に入ろうとした時、祥也が話し掛けてきて振り返った。


「ううん、何でもない」


「そっか、じゃあね」


「うん……」


私は家に入った。お父さんとお母さんが心配そうな顔で迎えてくれた。


「花菜、大丈夫?」


「うん。明日から学校に行くから」


「そう……」


お母さんも元気がなくて俯いているばかりだった。


私は自分の部屋につばさを連れてきた。


「今度、秘密基地行こうね」


私達が大好きだったあの場所。死にたい時に出会った場所。愛を育んだあの場所につばさを連れて行きたいんだ。


いつかの話だけどね……。



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