全てを失っても手に入れたい女が居る
菱野専務は私との約束を破ったことを謝り、そして由美さんを残し、小野田さんが心配だからと言って病室を出ていった。
「大変だったわね?
まさか手術してたなんて知らなくて、ごめんなさいね?私まで押しかけて?」
「いえ…こちらこそご迷惑をお掛けして…お子さんは大丈夫でしたか?」
菱野夫妻には二人のお子さんがいる下の子はまだ1歳にもなっていない。
「ええ、母が来てたから、ちょうど良かったわ」
「そうですか…」
お母様にもご迷惑を…
「ねぇ梨華さんは浩司と離れる事があなたの幸せなの?」
「え?…私は…」
「浩司の幸せってなんだろう?
前に私、お願いしたわよね?」
以前小野田さんが入院した時に由美さんにお願いされていた。
『私達は彼奴に幸せになって欲しいの…普通の家庭をもって家族の幸せをあじわってほしい』と、
そして私は協力すると約束した。それで何度か、食事会と言う名のお見合いをセッテイングにも協力した。
「浩司はあなたと離れて幸せかしか?
浩司があなたとの幸せを望んでるのに?」
私との幸せを望んでる?
「この世に人の代わりなんて居ないと思うの。特に愛する人の代わりはいないはずよ?
あなたも以前それで苦しんだんじゃない?」
そう…誠が私から離れたときは苦しかった。
「浩司も同じじゃないかしら?」
「遠くから相手の幸せを願うんじゃなくて、愛してる相手なら尚更、相手を幸せにしてあげなくちゃ?
あなた達は互いに愛し合ってるんだから、絶対愛する人の手は離しちゃダメよ?」
「由美さん…」
由美さんの言いたい事は分かる。
でも、それは健常者であるならで、私には当てはまらない。
「でも…私は…彼に家族…作ってあげれないから…」
「その事、浩司に話した?」
話せるわけない。やっと家族の良さを知り、自分の家族を持ちたいと思った彼に話せる訳がない。
怖かった…
彼に私の身体の事が知れる事が…
私は由美さんの問に、俯いてただ首を振った。
「家族って子供が居なきゃ家族じゃないのかしら?
夫婦二人だけでも家族なんじゃない?
浩司には家族と呼べる人は居ないけど、梨華さんと一緒になれば梨華さんと言う家族が出来、梨華さんの家族とも家族なる。
一度、浩司が思う家族ってなにか?
幸せってなにか聞いてあげて欲しい」
「……でも…彼には向こうにキャサリンって大切な女(ひと)が居るから…」
「キャサリン…ぷっ…ああ、キャサリンね?
ブロンド髪の良い女ね?
確かにコンテストで賞取るほどスタイル良いし、浩司にもベタ惚れだとは聞いてるけど、梨華さんも負けてないと思うよ?
ブロンド髪の女なんかに負かるな!
奪い取っちゃいな!」と言って笑う由美さん。
軽く言わないでくださいよ…
奪われた経験のある私にそんな事…
「取り敢えず、浩司と話してやって?
わざわざアメリカから来てるんだからさ?」