転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
*落ちた
chapter10 落ちた


婚約パーティから1ヶ月程が経った頃。

「あれ、まだ部屋に戻ってないんだ」

独り言を呟きながらいつものようにグイードの私室を訪れた私は、電気を点けた途端凍りついた。

こちらに背を向けて長い白金の髪を垂らした少女が椅子に座っている。後ろ姿でも見間違うはずがない。

慌てて駆け寄り彼女の前に回り込む。

「なんであなたがここにいるの!」

少女はこちらに目もくれずもぐもぐとお茶請けのお菓子を頬張っている。相変わらず人形のような可愛らしさだ。動いていなければわからないかもしれない。

私は大きく息を吸った。

「アマルダ!」

「……そんな大きな声を出さなくても聞こえてますわ」

ふう、と息をついてアマルダがこちらを見る。

「お久しぶりですわね」

「お久しぶりっていうか……なんでここにいるの?」

「なんでって、来てはいけないのかしら?」

アマルダが心底不思議だという様子で首を傾げる。白々しい仕草に私の方が狼狽える。

「そ、そういうわけじゃないけど……せめて電気を点けるとかあるでしょ?」

「驚かせようと思いましたのよ」

にっこりと微笑まれるが迂闊に絆されるわけにはいかない。悪意は感じなかったが、ここまでわざわざ足を運ぶなど何かを企んでいるとしか思えない。

「私、諦めきれなくて……」

ほらやっぱり────

息を詰めた私の視線の先で、しかし彼女はぱっと小さな手を開いた。

「なんてね、今日は貴女に会いに来ましたのよ」

「……私に?」

目を瞬かせる私をよそに、アマルダはひょいと椅子から降りると顎に指を当てる。

「あの時は私も感情に流されていましたけど。私、あれから貴女に言われたことを考えてみましたの。そうしたら、不本意ながら意外と納得できてしまいましたわ」

「え……え?」

未だ状況についていけていない私に唇を綻ばせて、アマルダはひとこと。
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