ただ好きだから



傷一つなく黒光りした高級車。見た事もないような革張りの後部座席。



やけに大きな溜息を落としながら、結局私はこの車に揺られて社長の自宅へと向かっている。



だいたいさっきまで会社にいたのに何でまた社長の家なんかに…用があるなら会社で済ませてくれれば良いのに…



東堂さんから電話があった後、なかなか降りてこない私を見兼ねたのか結局東堂さんが私の部屋まで迎えに来て強制的に連行された。



今…ハッキリ言ってそれどころじゃないのに…
荷物撤去されるは。管理会社に電話は繋がらないはで頭パンク寸前なのに。



そんな事をもんもんと考えながら「着きました」という東堂さんの声で後部座席のドアを開けると「ありがとうございます」と言って大きな溜息を一つ吐き出す。



「仲良くなさって下さいね」



やけにクールかつ爽やかにそう言われ、降り立ったこの馬鹿みたいに高級なマンションの前でもう一度深い溜息を吐き出した。



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