限定なひと

「もう、母さんったら、また要らないもの寄こして」
「まぁまぁ、親心なんだから、ありがたく受け取っておこうよ」
 車の助手席で、膝の上の買い物袋を覗き込みながら、眉間に皺を寄せて口を尖らす美智留さんは、ちょっと子供っぽくてこれもまた、可愛い。
 初めて出逢った時は、何か苛烈な物を秘めた、繊細で危うげなお姉さん。再会した職場では、穏やかで控えめな人。そのくせお酒が入ると妙に明るくなって、毎日を息苦しく過ごしている印象もあった。
 で、娘という立場だと、堪え切れないほどの不機嫌と苛立ちに苛まれている人のようだ。
 俺はまた一つ別の美智留さんを見つけて、ちょっと浮かれている。
 初対面の無表情があまりにインパクト大だったからだろうか、こういう感情むき出しの彼女を目の当たりにすると、むしろ嬉しくさえ感じる。俺はやっぱり彼女のことになると、おかしくなるみたいだ。
「……ど、どしたの?」
 なんか、彼女の視線が、痛いほど俺に刺さってるんですが。
「眼鏡。変えたんだ」
「あ、あぁ、これね。前の、嫌だったでしょ? だから、極太フレームやめて、気分一新、ノンフレームにしてみた」
 やっぱり半眼でふーんとか言ってる。俺、なんかやらかした?
「前のよりも、……ずっと素敵だと思う」
 その会心の一撃的な一言に、思わず彼女の方を向くと、危ないから前見てっ! って怒られた。
 ああもう、どうしよう。やばい、ニヤニヤが止まらない。
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