しあわせ食堂の異世界ご飯2
「お待たせしました!」
 アリアは嬉しそうに笑い、机の上に料理を置く。
 そしてリントを見て、「あっ!」と表情を明るくする。
「服のサイズ、ちょうどいいですね。目測だったので、ちょっと不安だったんです」
「ああ、ありがとう」
「さっきはご飯のことで頭がいっぱいで、うっかりしてました」
 気付きませんでしたと言うアリアに、リントは笑う。
「本当にハンバーグで大丈夫でした? 食べて無理そうなら、ちゃんと言ってくださいね」
 先ほどと同じように心配するアリアの言葉を聞き、リントはすぐに首を振る。
「美味しいから、大丈夫だ」
 ハンバーグを食べるため、開店前のしあわせ食堂に並んだことだってある。よくよく考えれば、ハンバーグを食べてからなんだかんだもう一ヶ月弱ほどだ。
「あまり日にちは経っていないと思っていたが、ハンバーグを食べに来てからあっという間にもう一ヶ月か」
「リントさんは忙しいですから、気づいたら一日が終わっているんじゃないですか?」
「それはアリアもだろう?」
 すぐ次の日になると言うアリアに、リントは笑う。
 しあわせ食堂の忙しさは、誰から見ても一目瞭然だ。
 そこの料理をすべて担当しているアリアが、目の回るような忙しさだということは簡単に想像できる。
「あ、そうだ。リントさんが本調子になるまで、ここにいていいっていう許可をエマさんからもらったので、安心して休んでくださいね」
「!」
「でも、ローレンツさんには連絡した方がいいですよね? シャルルにお使いをお願いできるので、どうすればいいか教えてください」
 もしかしたら、ローレンツがリントのことを捜しているかもしれない。そうなら、早く連絡をして安心させてあげるのが先決だ。
 リントは少し考えて、手紙を用意することに決めた。
「手紙の道具一式を借りていいか? フォンクナー大臣に渡してもらえれば、ローレンツに連絡が行くよう手配しておく」
「はい、問題ないですよ。机の一番上の引き出しに一式入っているので、ご飯が終わってから書いてください。よくなったとはいえ、毒に侵されていたんですから」
 まだ安静にしていてもらわなければ、困ってしまう。
 冷めてしまう前に食べましょうと言って、アリアも自分用に持ってきたカレーに手をつけた。

 リントが食事する横で、アリアもベッドに座ってカレーを食べる。小さな机がひとつしかないため、ふたり並んで食べるのは難しいのだ。
 ハンバーグを食べているリントが、ちらちらアリアの方へ視線を向けてくる。けれど何か言うわけでもないので、気になってしまう。
「どうかしましたか? リントさん」
「……いや、一晩休んだだけなのに体が軽すぎると思ってな。前はもっと、怠さが残ったからな」
「…………」
(前は?)
 一体どれだけ毒を盛られているんだと叫びたい衝動にかられるけれど、我慢する。
 アリアには、リントの言ったことにひとつ心当たりがある。それはシャルルが用意してくれた、毒の浄化をしてくれるキノコだ。
「きっと、雑炊にハレル茸を入れておいたからです。毒を浄化する作用があると、シャルルに教えてもらいました」
 それを告げると、リントは驚いたように目を見開く。
「あのキノコを持っていたのか。貴重で、あまり採れないんだが……シャルルさんは運がよかったんだな。そのおかげで俺も助けてもらって、ありがとう」
「いえいえ。でも、シャルルにあったら何か言ってあげてください。リントさんのために、とても頑張ってくれたんです」
 主に物理面で。
 さすがにシャルルがリントを担いで運んだとは言いにくいけれど、怪我や体の状態などを見てくれたのは彼女だ。
「ああ、もちろんあとで礼をさせてもらう」
「ありがとうございます。シャルルもきっと、喜ぶと思います」

 そしてすべてがひと段落して夜になり――リントは昼間と同じようにアリアのベッドで横になっていた。
 一緒に寝るのか? と、年甲斐もなくドキドキしてしまったのだが……残念ながらアリアはシャルルの部屋で寝ると言う。
 リントをひとりにして部屋を出ていってしまった。
「というか、何を期待していたんだ俺は……」
 いや、別にやましい気持ちがあったわけではない。
 アリアがそばにいると家族のような温かさを感じられて好きだったのだが、それは本当の家族になるまでお預けのようだ。
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