水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
エピローグ
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「長い一日だったな」
「そうですね。なんか、いろんな事がいっぺんに起こりすぎて、わけが分からないです」

 碧の家に帰宅後、いつも通り食事と風呂を済ませた波音と碧は、ベッドの上で隣り合って寝転んでいる。砂紋がもたらした混乱は、まだ二人に尾を引いていた。

 プロポーズがなかったことになるのだと、あの一瞬で、波音は碧のために覚悟を決めた。

 心臓が引き絞られる思いだったが、碧の目標の集大成である曲芸団を、手放してほしくなかったのだ。

 もちろん、碧には皇族になったとしても、人々を引っ張っていく統率力やカリスマ性はあると思うのだが、波音はピエロを演じている碧の方が好きだ。大好きだ。

 もしもあの時、碧が取捨選択していたら、波音は砂紋のところに嫁いでいたかもしれない。どちらも譲れないと我が儘になってくれた碧に、今は感謝の気持ちでいっぱいだ。

「私、砂紋さんの演技って、全部が冗談ではないと思うんですよね……。途中、鬼気迫るものがありましたし」
「ああ。俺に対する恨みつらみは、多分本心だった。それに、お前に本気だって言ってたし」
「あれ、びっくりしました。一目惚れとか、今までされたことありませんでしたし……嘘でしょって」
「いや。砂紋が初めてじゃないぞ」
「え?」

 碧が上体を起こし、波音の顔を覗き込む。何かを言いかけて口を開けたが、すぐに閉じてしまった。

 あれだけ砂紋の前で恥ずかしいやりとりをしておいて、まだ言葉にするのを躊躇っているのだろうか。

「なんですか? 聞きたいです」
「……俺の方が先。お前の面倒を見ようと思ったのも、意地悪したくなるのも、海で助けた時に……惚れたからだ」

 碧は枕に顔を突っ伏してしまい、最後の方は声が窄《すぼ》んで聞き取りづらかった。可愛い一面に、波音は笑う。
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