水の踊り子と幸せのピエロ~不器用な彼の寵愛~
「分かった。ただ、来週の公演まで、みっちり特訓する。辛くて泣こうが喚《わめ》こうが、途中で投げ出すのも許さない。本当にいいな?」
「……はい!」

 未だ騒がしい団員たちを、碧が手を叩いて黙らせた。これは団長の決定だから覆らない、とでも言いたげに、堂々としている。その姿に、波音もやり遂げたいという決意を心に刻んだ。

 その後のミーティングは、来週の公演に向けて、各所への対応やお知らせの分担、練習スケジュールの調整などが行われた。

 解散となると、すぐに滉が憤怒《ふんぬ》の形相で波音の元へとやってくる。波音は身構えた。

「いくら団長に指名されたからって、普通、二つ返事で了承するか!? 少しは考えろ!」
「すみませんっ……でも、軽い気持ちじゃありませんから!」
「お前みたいな生半可なやつが、この曲芸団の価値を下げるんだよ! 紫だってそうだ……!」
「滉、そこらへんにしておけ」

 あまりの剣幕に波音が怯えていると、碧が滉との間に立った。滉は碧を前にするとおとなしくなるようで、肩を怒らせながらも「すみません」と小さく口にした。

(滉さんも、彼なりに曲芸団のことを想ってる。だからこそ、私も全力でやりたい)

 滉を見返してやりたいとか、酷い罵倒を撤回させたいとか、そういう感情は波音にはない。今できることを、やり遂げたい一心だった。
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