クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
ランチタイムのカフェは混み合っていた。奥の席に横手さんを見つける。私はサンドイッチとカフェオレを注文し、トレーを持って横手さんの前に現れた。

「阿木さん」

横手さんが私を見て、腰を浮かせる。横手さんの前にはカプチーノが一杯だけ。

「食事、買ってきてないの?買ってきたら?」

私は自分のトレーを掲げてみせる。
横手さんとしてはそれどころじゃないのだろう。でも、私は彼女に落ち着いて話をしてほしかった。自分自身も落ち着きたかったし。

「でも、阿木さん」
「せっかくなんだから、一緒にお昼食べましょうよ」

横手さんは私の意見を尊重することにした様子で、急いでレジの列に並び、フルーツサンドイッチを手に戻ってきた。

「あ、それ美味しいのよね、私結構好き」
「阿木さん、話を聞いてください」

横手さんは必死だ。私はなるべく穏やかな笑顔で彼女を見やる。

「総務部長の言っていたことは誤解です。私とこうちゃんはまだ婚約なんかしていません」

まだ、ということはこれからするということだ。私は冷えた心の芯でそう思う。

「私が、父の勧めの見合いを断ったからだと思います。それなら、旧知の仲の孝太郎くんはどうだって父が言いだして、それに社長……こうちゃんのお父様がのってきたという感じで。まだ父親同士の口約束の段階です。飲みの席で吹聴しているようですが、断じて決定した事実ではないです」

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