クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
エピローグ
「真純せんぱーい!人事課のお力でどーにか持田先輩を総務ニ課に戻してくださーい!」

午前中のオフィスに響き渡るのは山根さんの懇願だ。私は困った顔で首を傾げた。

「そうは言ってもねぇ。持田さん、もともと営業事務志望だったから」

私の答えに納得できないとばかりに呻き、デスクをとことこ拳でたたく山根さん。

「でも!真純先輩が人事課に異動になって、持田先輩が営業三課に異動になって、私いっぱいいっぱいですよーっ!!」
「後輩をいっぱい入れたでしょ?山根さんももう3年目なんだから、面倒見てあげて」
「まだ3年目なんですぅ。私が面倒見てもらう立場ですぅ」
「そんなこと言わないの」

千石孝太郎が富士ヶ嶺を去ってから2年が経った。
私を始め、総務のメンバーも少々環境が変わった。
私は同じ総務部の中でも人事課に戻り、持田さんは先日長年希望していた営業部へ異動した。ずっとやりたかった分野の仕事で、持田さんも張り切っている。
山根さんはそのまま二課にいる。いっぱいいっぱいと言いつつ、後輩を指導しながら立派にグループリーダーをこなしているって私は知っているんだけどなぁ。

「“次期人事課長”!お願いしますぅ!持田先輩をもーどーしーてーっ!」
「ちょっとちょっと、それやめて」

山根さんの言葉を慌てて否定すると、横から現上司の井戸川課長がニヤニヤ口を挟んできた。

「いいじゃない、阿木さん。我が社最年少課長の誕生はほぼ決定なんだから」

そう、ちょっと困ったことに私は新年度には昇進の内示が出ている。
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