クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
私のはっきりした断りに、千石くんは余裕を持って微笑んだ。全然応えてない、この人。

「その通りですね。真純さんの考えは正しい。でも頑張った部下に個人的に優しくしても、問題は生じないと思いますよ。上司が部下を飲みに連れて行ってくれるなんて、日本社会ではよくあるじゃないですか」

個人的にっていうのが嫌なのよ。あなたとこれ以上個人的に距離を縮めたくないんです。
っていうか、私めちゃくちゃ断ってるよねえ?どうしてそんなにめげないの?
若いからとかじゃなく、彼の性格がわからない。頭良すぎると、考え方が随分違うんだわ。

「そんなわけで交際は置いておいて、食事に付き合ってください。その程度、上司と部下の範疇だと思いませんか?」

グレードダウンの譲歩案が来た。っていうか『付き合う』はたぶん冗談だったんだと今更気づく。こっちが本題なんだわ。自然に私を食事に誘い、断る理由を薄くするため、先に大きな提示をしたのね。

「嫌です」

それでも平然と断る。そっちのペースに乗ってなんかやらない。

「釣れないなぁ。俺にもやる気をくださいよ」

そう言って突然、千石くんが顔を近づけてきた。
鼻と鼻の距離はざっと30センチ。近い近い近い!一度したキスがぶわっと頭に蘇り、私は息を詰め固まった。

「ずっと経営者として仕事をしてた時代と比べて、会社員になってから毎日割とハードなんです。日本の会社員の忙しさって独特ですね。たまに疲れてしまいます」

それはそうでしょうよ。あなた毎日自分でガンガン仕事してるじゃない。人より処理能力が高いからって、なんでも自分でこなしちゃうから忙しいのよ。

「終わったら好きな人からのご褒美が待ってる。そんな希望を持ちたいじゃないですか。真純さんとふたりきりで食事に行けると思ったら、俺はどんな困難も越えられます」

低くささやく声が耳に届く。やめて、拒否姿勢なのに、勝手に心臓がドキドキしてしまう。

「少しでも不備があれば、あなたは断る理由ができる」
「う……」

逃げ道まで用意され、さらに言いよどむ。
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