クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
食事……そこまで過剰反応して断ることもないのかしら。
仮にも部下で、仮にも未来の上司なんだし。コミュニケーションの一環といえばなしではない。本意ではないけれど、ここは乗ってあげた方がいいのかな。ご褒美になるなら。

精一杯冷静な表情をたもち、きりっと千石くんを見据え私は答えた。

「わかりました。食事だけなら……いいです」
「ありがとうございます。俺、頑張ります」

怪しげな視線を一転、さわやかな微笑みに変え、千石くんは背筋を伸ばした。熟慮の間もなく、勢いで返事してしまった。絶対、後で後悔する。

その時だ。
私のポケットで携帯が振動し始めた。バイブレーションが長いから着信だろう。

取り出して画面を見て、知らない番号に首を傾げる。ああ、そういえば、キッチンのカフェカーテンが壊れて代引きで突っ張り棒と補強のシールを買ったんだっけ。代引きの場合は直前に業者から電話がくる。きっとそれだ。
それにしたって夜の時間帯を指定したのに早過ぎじゃない。
時刻は昼休みに入っているから、多少の私用電話もいいよね。ごめんねと断って千石くんの前で通話をタップした。

「……真純?」

思わぬ声が耳に飛び込んできて、言葉を失った。

「真純?俺。……出てくれてありがとう」

大翔だ。2ヶ月前に別れた大翔だ。
どうして今頃?
そうだ、別れてすぐに携帯のアドレスを消したんだ。大翔だとわかっていたら、電話なんか出なかったのに。
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