クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
電車を乗り継いで 25分で新宿に到着する。富士ヶ嶺カンパニー本社ビルが私の職場だ。
入社8年目の富士ヶ嶺カンパニーは所謂、総合商社。卸売業で一部上場している大企業だ。社員数はグループ企業まで合わせればざっと一万人。この本社にもあらゆる部署に千人以上が勤務している。

私のオフィスは2階の総務部だ。近いのでエレベーターは使わず、エントランスの奥の階段を上る。オフィスはすぐそこにある。

「おはようございます」

ドアのところで一礼、フロアの面々から挨拶が返ってくる。制服はないので着替える必要もない。そのまま私は自身のデスクに近づき、次に上司に頭を下げた。

「野口課長、おはようございます」
「おはよう、阿木さん」

ほんわかと答える直属の上司は総務部渉外課の野口課長。痩せて小柄な五十代の男性だ。

総務部は庶務や担当する一課と、渉外や法務業務を担当する二課、人事課、秘書課、システム管理課と別れ、それぞれ十名前後がチームで働いている。
私が所属しているのは総務二課だ。
二課の野口課長はお世辞にも仕事のできる人ではない。

「阿木さん、困ったことになったよ」

内心、『またか~』と思いつつ、とりあえずはいと返事。
野口課長の困ったことはいつものことで、その内容は大小様々。課長の『困ったこと』、私も慣れちゃってるけどね。
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