クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
「優しく慰めた方がよかったですか?」

彼はどうやら、私にひとこと……主に叱咤激励するためにきたらしい。ちょっと乱暴な物言いだけど、くよくよ内にこもるなって言いたいんだと思う。

「いいえ」

私もニッと笑い返した。

「三十過ぎて悲劇のヒロインは痛いわね。大きなミスにすくみあがっちゃって、ダサイったらない」

笑いが自然と自嘲気味になってしまう。
失恋で泣いていた私を抱きしめてくれた千石くんが、仕事のリカバリに空回る私を叱ってくれた。
不思議だけど、嫌じゃない。気持ちをフラットにしてくれた千石くんに私は感謝した。

「ありがとう。気になるところだけもう少し見たら帰るわ」

あなたはやっぱり魔法使いみたいなところがある。私の焦りや悲しみを見抜いてラクにしてくれる。
それはきっと千石くんの人間力なのだろう。彼のそんなところを尊敬する。

「俺も少し仕事があります。帰り道はご一緒してもいいですか?」
「え?嫌よ。別々に帰る」

私があっさりと答えると、千石くんが苦笑いのままがっくりとデスクに突っ伏した。爽やかな王子様の仮面はどこかへ行ってしまい、デスクと顔の隙間から無念そうな声がもれてくる。

「真純さん、ガード固い……」
「千石くん、何をしでかすかわからないんだもん。距離とるわよ、そりゃ」

一緒に帰るって言っても、せいぜい電車に乗るくらいまでだろう。本当は千石くんと一緒に帰ったっていい。でも、ここで隙を見せちゃいかんぞと思い直す。

流されちゃだめ。彼と私はただの同僚。私の方がちょっと立場が上なだけ。
ありがとね。心の中でもう一度御礼を言った。


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