クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした
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この日、関東地方は夕方から豪雨の予報。
数日前から警戒を促す報道はされていた。しかし、日中は気持ちよく晴れ、冬にしては暖かいくらいの気温だった。多くの人はどこが豪雨だろうと首を傾げたに違いない。
「阿木さん、他の課長も話し合ったんだけど、今日は早めに全社帰宅指示を出してしまおうと思うんだ」
「承知しました」
野口課長に言われ私は短く返事をした。確かに報道では鉄道が乱れ帰宅困難者が出るかもしれないとか、道路が冠水して都心部でも孤立が起こるかもしれないとか言っていた。
会社全体で定時を早めるというのはいい案だろう。安全管理がしっかりしてる会社アピールって気もするけれど、実際帰宅時に誰かが怪我したなんてことの方が大変だ。
「でも、私と千石くんは夕方に幕張でミーティングがあるので、それには参加する予定です」
会社は帰宅指示でも、社外の合同ミーティングは中止の判断がない限り開催される。正直に言えば、私だって帰っちゃいたいけれど、今回の仕事は他部署から依頼されたものなのだ。
「イベントにうちのブースを出すやつでしょ?第一営業部の手伝いの。そんなのあっちでやってほしいよねぇ」
野口課長は言うけれど、自分で第一営業部に断ることはできないんだよね。うん、知ってます。
今回の案件は手続きが多く、提出書類が多いから総務ニ課が第一営業部を手伝っているんだけど、割と私たちに丸投げしてくることが多い。これだから、万年忙しい営業部隊の手伝いは困るのだ。野口課長が最初から断ってくれれば話が早いんですよーと心の中で忠告しておく。