ハーモニーのために
グラスが空になり、ジャックが急に外に行こうと言い出した。
「とってもいい場所なんだよ。君にも見せてあげたい。」
そういったきり、ジャックは追いつくのが精いっぱいなくらい早足でバーを出て、外の岩山を登りだした。私は歩きにくい靴で彼に追いつこうと必死だった。すると、ジャックが不意に止まった。そこで彼はまっすぐとどこかを見つめていた。どこか真剣みを帯びた、会ってから初めて見たジャックの表情だった。彼の滑らかな肌にオレンジ色が反射し、髪の毛が風になびいていた。
私も彼の元へと駆け寄った途端、目の前で燃えた空が立ちはだかった。太陽が地球から消え去るのがおしいのか、思いっきり赤やオレンジ色の光線で空を埋め尽くしていた。私はその風景を見て心が揺らぐのを感じた。美しい―そしてそれと同時に怖いと思った。美しいのと怖いのは間一髪なのかもしれない。火炎放射によって燃やされる写真や書物の映像が頭で再生された。
「きれいだろう。ぼくはいつも気が滅入っているときにここに来るんだ。」
「そうなんだ…。ジャックも気が滅入ることがあるのね。」
少し意外だったので、ジャックの顔を覗き込むようにいたずらに笑った。すると、彼は真剣なまなざしで私を見返した。緑の目には燃える炎が宿っていた。私は不安な気持ちになり、顔を少ししかめた。
「すでに気が滅入っているのさ。君が僕の目の前に現れてからね。あの時君を連れて行きたいと思ったのは、きみがあんまりにも綺麗だったからなんだよ…。」
何を言えばいいのかわからず、夕日に負けないぐらい顔が赤く、熱くなった。戸惑っている私を見て、ジャックも照れくさそうに頭をかいた。
「ごめん、お互いほとんど何も知らないくせに…。でもさ、僕が君に惹かれたのは事実なんだ。」
そういって、ジャックは私の手を取って笑った。
「もう帰ろう!僕らの音楽を聞かせてあげるよ。」
ジャックに手を取られ歩いている間に、ずっと頭の中で彼が言っていたことが繰り返されていた。ジャックと一緒にいるとなぜこんなにドキドキして、まるでお花が一斉に花開いたような明るい気持ちになるのだろう。どうしてずっと一緒にいたいと思うのだろう。今までこんな風に感じたことはなかった。だれにも。何も。
夜のジャブルータウンは昼の強い日差しにより押さえつけられていた活気が一気に満ち溢れていた。薄暗いバーの中で、ランプのかすかな光を浴びながら人々が談笑していた。私はそんな人々をよけながらあいている椅子に腰かけた。すると、奥のカーテンからジャックと彼の友達が順に出てきた。ジャックは腰ぐらいまである金色に輝く楽器を持っていた。ボディーには丸や四角のキーがついており、先がきれいな曲線を描いて曲がって大きな穴が上を向いていた。クラリシア様のもとにいたときはあんな楽器は見たことがなかった。続いて大柄の黒人の男はトランペット、白人のおじいさんはコントラバスを持って出てきた。最後に二本の棒を持ったバーの店長、ニールはシンバルや太鼓がたくさん集まった楽器の集合体の場所に座った。この楽器も見たことがない。
「あんたはジャズを聴いたことがあるかい。」
つやのある聞き覚えのある声がして、あわてて隣を見たらオーリアが座っていた。あまりの興味深い光景に気を取られていて、オーリアが来たことにも気づかなかった。
「ジャズ?いえ。私は音楽しか知りません。」
そういうと、オーリアは目を丸くして私をみた。
「ジャズだって音楽さ。よく聴いていてごらん、胸が躍るよ。」
オーリアがそう言った途端、トランペットとジャックの楽器から元気のある張った音が放たれた。はじめの一音はいきなりすぎて驚いたけれど、すぐにパーカッションの音が流れを作った。私はあっという間にジャズの世界に魅了されていった。ジャックの奏でた音は滑らだが、次第に激しく胸の内をかき乱した。トランペットの男は座っている私を踊りださせてしまいそうなくらいの勢いで吹いていた。コントラバスのおじいさんの音が全体のバランスを保ち、激しさの中で安定していた。気づけば、まわりはもう狂ったように踊りまわっていた。足音が響き、人々がジャックたちにコールを投げ、あたりはもうやりたい放題であった。すると繰り返された旋律がとまり、ジャックだけが前に出てひとりだけで演奏しだした。ただニールはバックで静かにそのリズムを保っているだけだった。ジャックの指はまるで踊っているかのようにキーの上を滑り、多彩な音でその場を盛り上げた。彼の楽器からは低いうめき声や、美しい繊細な音、そしてしゃがれた音まで放たれた。一通りそれが終わると、人々は大声を上げ、拍手をした。私は何もわからず、茫然とその光景を見るだけであった。
これが音楽――私がクラリシア様から教えてもらった音楽とは別物すぎる。演奏中に踊りだすこともないし、叫び、拍手することもなかった。しかし、ジャズがクラシックと違いにせよ、それは胸の躍るような楽しいひと時であった。緊張感もない、ありのままをさらけ出すような解放感があった。私は楽しそうに演奏するジャックを見ていたら自然と笑みがこぼれた。
夜の演奏が終わり、私はジャックに連れられてオーリアの元へと向かった。
「どうだった?ジャズを聴いてみた感想は?」
「すごく楽しかった。とにかく胸が躍って、いてもたってもいられなくなりそうだったの。素敵だったわ。」
「そう?よかった、モニカに喜んでもらって。すごく頑張ったんだ。」
ジャックはいつも照れるとはにかむ。白い歯がまぶしく輝いた。そうして急に茶色い質素な家の前に立ち止まった。
「ここがオーリアの家さ。オーリアはきらびやかなものがあまり好きじゃないんだ。」
すると、ドアがさっと開き、オーリアが出てきた。
「こんばんは、お二人さん。ジャック、お疲れ様。また素敵な演奏をありがとう。モニカ、入りなさい。モニカが来る前に少し片づけておこうと思って、さっきは先に帰ってしまったのさ。」
「じゃあモニカ、また明日。オーリア、彼女をよろしく。ではおやすみなさい。」
ジャックは右手を挙げてそのまま背を向けた。彼はそのまま元来た道をたどって帰っていった。
「さあ早く、モニカ。」
「あ、はい。お邪魔します。」
家の中も外見と変わらず質素だった。家具の量は最低限だったが、こぢんまりとしていて落ち着いた。オーリアはそのまま椅子に腰かけ、私にも勧めた。どの家具も木製で、床もいた間だった。テーブルには赤や茶色などの原色を彩ったテーブルクロスがかけられていた。
「あんた、もう遅いから寝るといいね。もしおなかがすいているのだったら何かスープでもだすけれど。」
「いえ、ではもう寝る支度をします。」
そういって私が椅子を立ちあがろうとすると、オーリアはさっと口を開いた。
「そういや、モニカ、ジャックに恋しているね。」
私の体は硬直してそのまま動こうとしなかった。恋…っていったいなんだろう。考えを巡らしているうちに自然と顔が徐々に熱くなり、頭がくらくらした。うっすらとだけれど、ジャックには好意を抱いていた。もしかしてこれが恋というものかしら。それが確かなものなのかはしっかりと意識できなかったけれど、さっきの演奏を聴いてなお彼に惹かれていたのは事実だった。どぎまぎしている私を待つ暇もなく、オーリエはうなずいた。
「そうか、じゃあもう寝るんだね。そして明日早く起きなさい。」
私は何も言えず、そのまま寝室の方向へ歩いて行った。
皮膚が焼けるような光線を浴びて目が覚めた。私はベッドから飛び起きて、オーリエが用意してくれたジーンズとTシャツに着替えてから食卓へと向かった。オーリアはすでに起きていて、朝食の用意をしていた。私は朝の挨拶をし、朝食のスープとパンをゆっくりと食べはじめた。すると、オーリアが食器を前にぐっと押して私に強く言った。
「何をゆっくりしているの。早く食べてジャックに会いにいきなさい。」
「でも…急に会いに行っても…」と私が戸惑っていると、オーリアは更に強い声で私を戒めた。
「いいから!急ぎなさい。間に合わないわよ。」
彼女の言葉の意味を理解する暇もなく、私はパンを飲み込んでスープを一気に流し込み、玄関へと走っていった。
乾いた大地をサンダルで走って昨日のバーへ向かった。するとバーの入り口に私をクラリシアから連れ出した時の集団がいるのが見えた。その中に馬に乗ろうとしているジャックを見つけた。急に胸騒ぎがしてジャックに向かって大声で叫んだ。
「ジャック!どこへ行くの?」
私の叫び声に反応して、ジャックは後ろを振り返った。
「モニカ!おはよう。実は、また旅に出なければいけないんだ。昨日会ったばかりなのにね…。」
「いつ帰ってくるの…?」
不安げな私の目を見つめ、そっとため息を漏らしたあとにジャックは言った。
「わからない…。けど、絶対に帰ってくるよ。」
私は急に泣きたくなってきた。膝が震えて、声も出なかった。そんな私をジャックはみつめ、自分の体に引き寄せた。そして耳元で大丈夫だよ、とささやいた。じゃあね、とまたささやいた後に、ゆっくりと集団の元へと歩いて行った。そして馬にまたがって掛け声をあげた。集団が反応し、ジャブルーの門へと向かっていった。ジャックは最後に私を一瞬見て満面の笑みを見せてから、馬の鞭を大きく振ってジャブルーを出て行った。私は彼らが残していった砂埃の先をじっと見つめていた。馬の走る音が聴こえなくなった後も、足が張り付いたかのように突っ立っていた。
「とってもいい場所なんだよ。君にも見せてあげたい。」
そういったきり、ジャックは追いつくのが精いっぱいなくらい早足でバーを出て、外の岩山を登りだした。私は歩きにくい靴で彼に追いつこうと必死だった。すると、ジャックが不意に止まった。そこで彼はまっすぐとどこかを見つめていた。どこか真剣みを帯びた、会ってから初めて見たジャックの表情だった。彼の滑らかな肌にオレンジ色が反射し、髪の毛が風になびいていた。
私も彼の元へと駆け寄った途端、目の前で燃えた空が立ちはだかった。太陽が地球から消え去るのがおしいのか、思いっきり赤やオレンジ色の光線で空を埋め尽くしていた。私はその風景を見て心が揺らぐのを感じた。美しい―そしてそれと同時に怖いと思った。美しいのと怖いのは間一髪なのかもしれない。火炎放射によって燃やされる写真や書物の映像が頭で再生された。
「きれいだろう。ぼくはいつも気が滅入っているときにここに来るんだ。」
「そうなんだ…。ジャックも気が滅入ることがあるのね。」
少し意外だったので、ジャックの顔を覗き込むようにいたずらに笑った。すると、彼は真剣なまなざしで私を見返した。緑の目には燃える炎が宿っていた。私は不安な気持ちになり、顔を少ししかめた。
「すでに気が滅入っているのさ。君が僕の目の前に現れてからね。あの時君を連れて行きたいと思ったのは、きみがあんまりにも綺麗だったからなんだよ…。」
何を言えばいいのかわからず、夕日に負けないぐらい顔が赤く、熱くなった。戸惑っている私を見て、ジャックも照れくさそうに頭をかいた。
「ごめん、お互いほとんど何も知らないくせに…。でもさ、僕が君に惹かれたのは事実なんだ。」
そういって、ジャックは私の手を取って笑った。
「もう帰ろう!僕らの音楽を聞かせてあげるよ。」
ジャックに手を取られ歩いている間に、ずっと頭の中で彼が言っていたことが繰り返されていた。ジャックと一緒にいるとなぜこんなにドキドキして、まるでお花が一斉に花開いたような明るい気持ちになるのだろう。どうしてずっと一緒にいたいと思うのだろう。今までこんな風に感じたことはなかった。だれにも。何も。
夜のジャブルータウンは昼の強い日差しにより押さえつけられていた活気が一気に満ち溢れていた。薄暗いバーの中で、ランプのかすかな光を浴びながら人々が談笑していた。私はそんな人々をよけながらあいている椅子に腰かけた。すると、奥のカーテンからジャックと彼の友達が順に出てきた。ジャックは腰ぐらいまである金色に輝く楽器を持っていた。ボディーには丸や四角のキーがついており、先がきれいな曲線を描いて曲がって大きな穴が上を向いていた。クラリシア様のもとにいたときはあんな楽器は見たことがなかった。続いて大柄の黒人の男はトランペット、白人のおじいさんはコントラバスを持って出てきた。最後に二本の棒を持ったバーの店長、ニールはシンバルや太鼓がたくさん集まった楽器の集合体の場所に座った。この楽器も見たことがない。
「あんたはジャズを聴いたことがあるかい。」
つやのある聞き覚えのある声がして、あわてて隣を見たらオーリアが座っていた。あまりの興味深い光景に気を取られていて、オーリアが来たことにも気づかなかった。
「ジャズ?いえ。私は音楽しか知りません。」
そういうと、オーリアは目を丸くして私をみた。
「ジャズだって音楽さ。よく聴いていてごらん、胸が躍るよ。」
オーリアがそう言った途端、トランペットとジャックの楽器から元気のある張った音が放たれた。はじめの一音はいきなりすぎて驚いたけれど、すぐにパーカッションの音が流れを作った。私はあっという間にジャズの世界に魅了されていった。ジャックの奏でた音は滑らだが、次第に激しく胸の内をかき乱した。トランペットの男は座っている私を踊りださせてしまいそうなくらいの勢いで吹いていた。コントラバスのおじいさんの音が全体のバランスを保ち、激しさの中で安定していた。気づけば、まわりはもう狂ったように踊りまわっていた。足音が響き、人々がジャックたちにコールを投げ、あたりはもうやりたい放題であった。すると繰り返された旋律がとまり、ジャックだけが前に出てひとりだけで演奏しだした。ただニールはバックで静かにそのリズムを保っているだけだった。ジャックの指はまるで踊っているかのようにキーの上を滑り、多彩な音でその場を盛り上げた。彼の楽器からは低いうめき声や、美しい繊細な音、そしてしゃがれた音まで放たれた。一通りそれが終わると、人々は大声を上げ、拍手をした。私は何もわからず、茫然とその光景を見るだけであった。
これが音楽――私がクラリシア様から教えてもらった音楽とは別物すぎる。演奏中に踊りだすこともないし、叫び、拍手することもなかった。しかし、ジャズがクラシックと違いにせよ、それは胸の躍るような楽しいひと時であった。緊張感もない、ありのままをさらけ出すような解放感があった。私は楽しそうに演奏するジャックを見ていたら自然と笑みがこぼれた。
夜の演奏が終わり、私はジャックに連れられてオーリアの元へと向かった。
「どうだった?ジャズを聴いてみた感想は?」
「すごく楽しかった。とにかく胸が躍って、いてもたってもいられなくなりそうだったの。素敵だったわ。」
「そう?よかった、モニカに喜んでもらって。すごく頑張ったんだ。」
ジャックはいつも照れるとはにかむ。白い歯がまぶしく輝いた。そうして急に茶色い質素な家の前に立ち止まった。
「ここがオーリアの家さ。オーリアはきらびやかなものがあまり好きじゃないんだ。」
すると、ドアがさっと開き、オーリアが出てきた。
「こんばんは、お二人さん。ジャック、お疲れ様。また素敵な演奏をありがとう。モニカ、入りなさい。モニカが来る前に少し片づけておこうと思って、さっきは先に帰ってしまったのさ。」
「じゃあモニカ、また明日。オーリア、彼女をよろしく。ではおやすみなさい。」
ジャックは右手を挙げてそのまま背を向けた。彼はそのまま元来た道をたどって帰っていった。
「さあ早く、モニカ。」
「あ、はい。お邪魔します。」
家の中も外見と変わらず質素だった。家具の量は最低限だったが、こぢんまりとしていて落ち着いた。オーリアはそのまま椅子に腰かけ、私にも勧めた。どの家具も木製で、床もいた間だった。テーブルには赤や茶色などの原色を彩ったテーブルクロスがかけられていた。
「あんた、もう遅いから寝るといいね。もしおなかがすいているのだったら何かスープでもだすけれど。」
「いえ、ではもう寝る支度をします。」
そういって私が椅子を立ちあがろうとすると、オーリアはさっと口を開いた。
「そういや、モニカ、ジャックに恋しているね。」
私の体は硬直してそのまま動こうとしなかった。恋…っていったいなんだろう。考えを巡らしているうちに自然と顔が徐々に熱くなり、頭がくらくらした。うっすらとだけれど、ジャックには好意を抱いていた。もしかしてこれが恋というものかしら。それが確かなものなのかはしっかりと意識できなかったけれど、さっきの演奏を聴いてなお彼に惹かれていたのは事実だった。どぎまぎしている私を待つ暇もなく、オーリエはうなずいた。
「そうか、じゃあもう寝るんだね。そして明日早く起きなさい。」
私は何も言えず、そのまま寝室の方向へ歩いて行った。
皮膚が焼けるような光線を浴びて目が覚めた。私はベッドから飛び起きて、オーリエが用意してくれたジーンズとTシャツに着替えてから食卓へと向かった。オーリアはすでに起きていて、朝食の用意をしていた。私は朝の挨拶をし、朝食のスープとパンをゆっくりと食べはじめた。すると、オーリアが食器を前にぐっと押して私に強く言った。
「何をゆっくりしているの。早く食べてジャックに会いにいきなさい。」
「でも…急に会いに行っても…」と私が戸惑っていると、オーリアは更に強い声で私を戒めた。
「いいから!急ぎなさい。間に合わないわよ。」
彼女の言葉の意味を理解する暇もなく、私はパンを飲み込んでスープを一気に流し込み、玄関へと走っていった。
乾いた大地をサンダルで走って昨日のバーへ向かった。するとバーの入り口に私をクラリシアから連れ出した時の集団がいるのが見えた。その中に馬に乗ろうとしているジャックを見つけた。急に胸騒ぎがしてジャックに向かって大声で叫んだ。
「ジャック!どこへ行くの?」
私の叫び声に反応して、ジャックは後ろを振り返った。
「モニカ!おはよう。実は、また旅に出なければいけないんだ。昨日会ったばかりなのにね…。」
「いつ帰ってくるの…?」
不安げな私の目を見つめ、そっとため息を漏らしたあとにジャックは言った。
「わからない…。けど、絶対に帰ってくるよ。」
私は急に泣きたくなってきた。膝が震えて、声も出なかった。そんな私をジャックはみつめ、自分の体に引き寄せた。そして耳元で大丈夫だよ、とささやいた。じゃあね、とまたささやいた後に、ゆっくりと集団の元へと歩いて行った。そして馬にまたがって掛け声をあげた。集団が反応し、ジャブルーの門へと向かっていった。ジャックは最後に私を一瞬見て満面の笑みを見せてから、馬の鞭を大きく振ってジャブルーを出て行った。私は彼らが残していった砂埃の先をじっと見つめていた。馬の走る音が聴こえなくなった後も、足が張り付いたかのように突っ立っていた。