覚悟はいいですか

《side 礼》

紫織は泣きながら眠ってしまった……
緊張の連続で感情が高ぶり、疲れたようだ

この2年間、本当の意味で心安らぐことがなかったのだろう
もっと早く帰ってくるべきだった。そうすれば辛い目など絶対に合わせなかったのに
激しい後悔に襲われ、唇をかんだ

俺の胸にポスッと軽い音を立てて力尽きたように倒れ込んだ彼女をそっと抱きしめる
安心したような寝顔が言葉にできないほど可愛いらしい

ずっと眺めていたいが…
このままの体勢はいろいろとよろしくない……
ただでさえ8年分のバイアスがかかって、理性を飛び越えやすくなっているのだから

2年前のことを、怖かったその時の気持ちも再び思い出しても尚、紫織は俺のために話してくれた
だから男としてはつらいが、彼女が落ち着くまで、できるだけ紳士に徹しようと決めた


一度ソファにもたれさせてから、膝裏と背中に腕を廻して抱え直し、俺の寝室へ運ぶ
ベッドに横たえ、顔にかかる髪をよけると

スタンドの明かりに、化粧を落として少し幼くなった寝顔が照らされて、心臓が一気にザワつきだした…

まずい!

咄嗟にスタンドを消すと、頬の辺りが月明かりにキラキラしてる
よく見たら涙の跡だ……

そのままにしておけなくて、両手で頬をそっと挟み、手のひらに涙を吸わせるように軽く押し包む

静かな寝顔はまるで茨に囲まれたオーロラ姫のよう

そのまま顔を近づけ、祈るようにそっと口づけた…


君を縛る呪いも、君を傷つける奴(いばら)も、
俺がまとめて消し去ってあげるから
どうかこのキスで心の傷が癒えますように……


じっと可愛い寝顔を見つめている、と…

突然、ドアをノックする音がして俺の心臓は飛び跳ねた

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