覚悟はいいですか

彼は大学の最寄り駅近くに一人暮らしをしてる
私は電車で30分ほど行ったところで共働きの両親との実家暮らし

家まで送ると言う礼の言葉は、いつもならとても嬉しい

少しでも長く隣にいたいのは今も同じだが、

今日ばかりは切なくて苦しくて……

できたばかりの傷口は広がり続けて、
さっきから声が震えないよう、一人精神修行の最中なのだ


目の前に改札へ向かう階段が見えた
よし、もう少し!

「ほんとに大丈夫だよ。送ってくれてありがとう」

「電車混んでるかもな、外も暗いし痴漢とか気を付けるんだぞ」

「はいはい。礼も襲われないようにね~」

「俺は男だから!!」

「今日バレンタインだし、女の子がいっぱい待ち伏せしてるかもよ~」

「えっ!それはやだ!しおだけで十分だ!」

ん?どういう意味かな?と半目でにらめば、口に手を当てて視線を泳がせている

あぁ、そうか……

きっと、誰とも付き合わないという彼は、思いを寄せてくれる相手を何人も断り続けなきゃならない
そして相手を傷つけながら、その度に自身をも何度も傷つけてしまうのだろう

ほんとに優しいんだから、貴方が傷つくことなんてないんだよ

こればっかりはどうしようもないことだ
私を含めて


だから私はこんな言い訳で、少しだけ自分の欲を満たすことにした

「礼、おまじないしてあげる」

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