大好きな先輩は隠れ御曹司でした
それを聞いて、不意に光希は決心した。

着替えるだけで化粧直しもせず、驚いている静香さんに「失礼します」とだけ声をかけ、足早にエントランスへ向かう。

タイミングが悪いと嘆いても何も変わらない。それなら、自分で行動すれば良いのだ。自分の力でタイミングを捕まえれば良いのだ。

エレベーターを待つ少しの時間さえもどかしくて、慌てて階段を駆け下りた時、見覚えのある背中を見つけた。

姿勢が良い大きな背中はダークグレーのスーツをピシリと着こなしている。

「せんぱ……」

思わず綻んだ頬もそのままに出した声は、けれど途中で止まってしまった。

「お待たせしてすみません」

岡澤は窓際のスツールに座る人影に急ぎ足で近付いたのだ。
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