シンデレラと野獣
「家はどこ?」
カーナビを起動させて、康は優香に尋ねた。
さすがに、この状況になってまで、歩いて帰るとは言えなくなった為、優香は康に自宅の住所を告げた。
「あの、すいません」
「今日は、こちらも助けてもらうことが多かったから、気にしないでいい」
「伯母さんの料理美味しかったです」
「……伝えておく」
二人の会話は、そこで途切れた。
よくよく考えてみれば、男の人と二人きりで車に乗るなど、父親以外なかったことだ。
その時、優香は必死になっていたので、気がつかなかったが、康は端正な顔をしていた上に、優香の好きなタイプであった。
康自身も、自分の伯母に丁寧に相槌を打って、楽しそうに話をしていた優香に最初抱いていた悪い印象は消えかけていた。
赤信号が、青に変わり優香の自宅に車が近づいた。
異変に気がついたのは、優香だった。
「え、なんで」
自宅のアパートの自宅の扉が全開になっていたのだ。
「どうした?」
「家のドアが開いているんです」
車を駐車場に停めると、康は一緒に優香の部屋に行ってくれた。
朝、鍵は必ずかけている。
嫌な予感がした。
そして、嫌な予感は的中した。
玄関先から中を覗くと、ぐちゃぐちゃに荒らされた部屋は、食器から下着から全て荒らされていた。
「どうして……」
震える優香に、康は「一旦、ここを離れるぞ」と彼女を促した。
まだ、部屋の中に犯人が隠れている可能性もあったからだ。
車に戻ると、康はスマホを取り出して警察に連絡をした。
「あの、すいません」
「すぐ来てくれるそうだ」
「ありがとうございます。でも、巻き込む訳には……」
「ここで、君を置いて帰るわけにもいかないだろう」
次に康は美智子に連絡を入れた。
優香の家に空き巣が入ったことを伝えると、電話先の美智子は興奮しているようだった。
そして、康の口から、とんでもない言葉が優香に発せられた。
「今夜、家に泊まるといい」