冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「ええ。でもすぐここに戻ってくることになるわ。私がお妃だなんて、想像しただけで可笑しいもの。お転婆だし、跳ねっ返りだし」

「そうだね。お前は小さい頃から、家でおとなしくしているより、外に出たがる女の子だったね。剣術もいつの間にか上達していて驚いたよ」

 ハウエルが昔を懐かしむように笑うと、つられてフィラーナの顔にも微笑みが広がる。

「でも、意外と王太子殿下はフィラーナのような女性がお好みかもしれないよ。これまでどんな令嬢にも心動かされなかった御仁だからね」

 ハウエルの発言に、フィラーナは徐々に笑みを失い、俯くと、ドレスのスカートをぎゅっと握る。

「……もし、そうなったら、ここには戻れないわ。そんなの嫌」

 万が一、王太子がフィラーナを望めば、一介の貴族に拒否権はない。貴族間の婚姻とは違い、里帰りも難しいだろう。

「ごめん、そういう意味で言ったんじゃないんだ」

 ハウエルは妹の手の上に、自分の手を優しく重ね合わせた。

「お前がこの地と家を愛してるのは知ってる。僕のために剣術を習っていたことも」

「お兄様……」

 フィラーナが顔を上げると、ハウエルの優しい瞳がじっとこちらを見つめている。

 ハウエルは少年だった時期に落馬事故に遭った。現在は奇跡的に回復し、日常生活に支障はないものの、その影響から普段の歩行は可能でも走ることは難しい。

「僕なら大丈夫だよ。父上もまだ健在だし、何かあったらクリストファーと仲間の騎士たちが駆けつけて守ってくれる。それに、そんなに憂鬱にならずに、これはめったにないチャンスだと思えばいい」
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