困難な初恋
はぁ、とため息をついたのは、喫煙所で隣に立っていた奴にも聞かれてしまったようだ。

「おいおい、何で幸せいっぱいの奴が、そんなため息?」

立っていたのは成瀬だった。
「おぉ・・・成瀬か」

幸せいっぱいじゃねぇよ、とつぶやくと、

え?ちょ、どういうこと、と成瀬も焦ったようだった。
口を開きかけたが、成瀬も外出時間が迫っていたようで、
今日!あの店でな!と、言い捨てて去っていった。

バタバタと去っていく成瀬の背中を見ながら考える。
一人で家にいても、思い出してしまうだけ。
誰かといた方がマシかもしれない。


「お疲れ」
「あぁ。」

カチン、とグラスを合わせる。いつもの居酒屋。
ここで純に聞かれたんだよな、とまた気持ちが暗くなる。

俺の顔を心配そうに見たあと、成瀬が優しい声で聞く。

「で、そんななってるのは何で?」

「自分から告白したんだ。ゲームのこと」

成瀬の目が丸くなる。

「なんでだよ!お前、変なとこ真面目だよなぁ、言わなくてもいいことを・・・」
と呆れたようにタバコをふかす。

そんな成瀬に、純という秋葉の友人のこと、その純に会話を偶然聞かれていたことを説明する。

「まじか。運、悪いな・・・」

そう言って哀れみの目を向けてくる成瀬だが、俺は運が悪いとは思っていなかった。

むしろ、今まで人を傷つけておいて、こんな気持ちにさせておいて、のうのうと過ごしていたことがおかしかったんだ。

もっと前に、罰を受けておくべきだった。


沈んだまま言葉を発しない俺に対し、成瀬が優しく声をかける。

「なんか、俺は嬉しかったんだけどな。
誰にアプローチしても、上手く行っても、心が動いてなかったお前が、
あんなに嬉しそうに、本気だって言ってくれて。」

「あーぁ。上手くいかないもんだな。」

しみじみと、友人のありがたみを感じる。

「お前は幸せになれよ。」

相手がいねーよ、と苦笑しながらポンポンと肩を叩く成瀬に慰められながら、夜は更けていった。
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