困難な初恋
そんな会話がなされているとは知らない俺は。
その日も仕事を終え、エレベーターに乗るところだった。

「松原さん」

聞き慣れた声がし、そこには秋葉が立っていた。

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まさか秋葉から話しかけてくれるなんて。
表情が緩みそうになるのを抑える。

「秋葉から話しかけてくれるとは思わなかった」

俺たちは、食事もできるカフェにいた。

「時間が欲しいって言ってから、なにも返事が出来ていなかったから・・・」

覚悟はしていたものの、その言葉を聞くとガチンと身体が緊張する。
目で、続けて、と先を促す。

「信じたい、と思ってる。
本気でって言ってくれた気持ちを。
でも、これまで松原さんと噂になってる人も、何人も見たことあるから、手放しでは信じられない」

ゴクっとツバを飲み込む。
そりゃそうだ、これまでゲームと称して遊んできた子の中には、もちろん社内の子もいる。
揉めるようなことはしていないつもりだが、それでも噂になってはいるだろうし、事実は消えない。


「秋葉の言うとおりだと思う。
自業自得だけど・・・
ほんとに、もう二度とそんなことはしない」

我ながら説得力の無い言葉を発したところで、
秋葉が口を開いた。

「もし、・・・もし本気で好きだと思ってくれてるなら、
ほんとに、ありのままの私でいて、
受け入れられるかどうか、松原さんにも考えてみて欲しい。」

ガバッと顔を上げる。
まじか!

嬉しそうな顔をしてしまっていただろう、その顔を見て、秋葉は、
「私、結構わがままですよ。松原さんが嫌になるかも」と苦笑した。
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