【2025.番外編＆全編再掲載】甘い罠に溺れたら

姿を見たわけでもないのに、ただ一言聞いただけの声で、こんなふうになってしまう自分に嫌気がさす。

「まだ恨んでるの？」
「もてあそばれたって？」

そんな疑問を自分に投げかけてみても、答えは出なかった。

そんなことを考えているうちに、いつの間にか会社の最寄り駅が目の前に迫ってきていることに気づき、私はカバンをギュッと握りしめた。

駅から出ると、今にも降り出しそうなどんよりとした空が広がっている。それを見て、また気持ちが沈みそうになり、私は気を紛らわせるように足早に会社へと向かった。

「おはようございます」

いつも通り挨拶をし、手早く席に着く。しかし、ふと周囲に違和感を覚え、少し空気がいつもと違うことに気がついた。みんな、どこか落ち着かない様子だ。

「ねえ、なんかみんな落ち着かない感じじゃない？ どうしたの？」

そう言いながら、私は横の席の後輩、新藤満ちゃんに視線を向けた。

「あ、沙耶さん！ おはようございます！」

私とは対照的に、満ちゃんはいつものようにかわいらしい笑顔を向けてくる。そして、少し興奮気味に言葉を続けた。