【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
そのすぐ後、課長の声がして、私は電話をしながらチラリとそちらを見た。
オーストラリアからの電話に対応していた私は、課長の後ろに立つその人の顔を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。
呼びかける受話器の向こうの声に、私はなんと答えて電話を切ったのか分からない。
心臓の音がうるさくて、手足が冷たくなり、自分のものではない気がした。
すでに途中まで課長の話が終わっていたのだろう。
その後ろの人が、一歩前に進み出た。
「佐伯優悟です。今日から一緒に仕事をさせてもらいます。急な異動でご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
少しだけ口元を緩めたその人の笑顔は、昔のような優しいものではなかった。
それでも、まぎれもなく――この1週間、私を縛りつけていたその人だった。
いや、1週間どころか、別れてからの5年以上の月日、ずっと私を苦しめ続けていたのだ。
その人を目の前にして、私ははっきりと実感した。
オーストラリアからの電話に対応していた私は、課長の後ろに立つその人の顔を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。
呼びかける受話器の向こうの声に、私はなんと答えて電話を切ったのか分からない。
心臓の音がうるさくて、手足が冷たくなり、自分のものではない気がした。
すでに途中まで課長の話が終わっていたのだろう。
その後ろの人が、一歩前に進み出た。
「佐伯優悟です。今日から一緒に仕事をさせてもらいます。急な異動でご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
少しだけ口元を緩めたその人の笑顔は、昔のような優しいものではなかった。
それでも、まぎれもなく――この1週間、私を縛りつけていたその人だった。
いや、1週間どころか、別れてからの5年以上の月日、ずっと私を苦しめ続けていたのだ。
その人を目の前にして、私ははっきりと実感した。