【2025.番外編&全編再掲載】甘い罠に溺れたら
先輩が直帰だったため、大きなホテルが建つ隣の駅に20時に待ち合わせをした私は、10分前にその場所について、これからの事を思って少し憂鬱になった。

部長に彼女がいて、どうにもならない事は解っているが、甘えるような形で水田先輩とお付き合いするのは絶対に間違っている。

それに、もとは私は付き合う事も、結婚も諦めたのだし、そこに戻るだけだと思った。

「ごめん、お待たせ」

少し小走りで走ってきた水田先輩に、私はペコリと頭を下げた。

「お疲れ様です」
少し微笑んで言った私に、水田先輩も「お疲れ」と返す。

「最近、俺にも笑ってくれるね」
特に表情を変えることなく言って、先輩は私を見た。

「そうですか……ね?」
どう言葉を返していいかわからず曖昧に答えた私に、先輩はニコリと笑った。

「何食べたい?ここのホテルの中にもいろいろあるけど……」
そう言って、都内でも有数の高級ホテルを先輩は見上げた。
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